とある神官の話
ジャナヤの件もどうするのか話し合わなければならない。ハイネンが「いよいよ戦争ですよ」と目を細めた。確かに戦争だ。枢機卿長が――こんなことになるなんて。
早く対策を考えなくては。
行くぞハイネン、と立ち上がった猊下がこちらを向く。
「少し、この馬鹿息子についてやってくれ。護衛の件は外にいるのと、ランジットに命じてある」
「はい」
では、と出ていく猊下と「勝利をもぎ取ってきます」というハイネン。それを見送り、息を吐く。
ランジットもまた「護衛として、改めてよろしくな」と微笑む。
誰か。
名前を出さなかったが、恐らく"あの人"なのだろう。彼はヤヒアと何を企んでいるのか。
部屋の椅子に腰かける。
何故、聖都に来ようと思ったのか自分でもわからない。心配だったから、確かにそうだった。心配。そりゃそうだろう。友人(としか今はいいようがない)として。その辺の同僚よりも親しくなっていて、しかも好きだと追いかけてくる人。ストーカー予備軍。
別に来る必要はなかった、とも言える。けれど、私は行かなければと思った。
―――――何故。
バルニエルにいるときから、もう何度そう問うただろうか。
「そういや、さ。変なこと聞くけど…ヴァン・フルーレでこいつと何かあったか?」
「何かって」
「あーいや、シエナがバルニエルに向かう前のこいつ、ちょっと様子が変だったんだよ。壁に顔向けてぶつぶつ言ってたし」
……、なんだそれ。
ただの変人じゃないか。
ランジットもまた思い出したらしく「あれは重症だった」という。
私がバルニエルに行く前といったら、"あの時"のことした浮かばない。ゼノンに強く言われたあのとき、彼は傷ついたような顔だった。彼のいうことは正しかった。それなのにいった彼が傷ついたような顔をしていたのだ。
そして私は逃げるように部屋を出て、レオドーラに情けない姿を晒したのだが。
ゼノン…あの人のことだから、きっと私が傷ついたと思ったのではないか。
優しいから。
そう、彼は―――優しいから。
「で、あいつのことからシエナがバルニエルに行くっていうなら、ついていけないなら見送りくらいしそうだろう?行かないのかって聞いたら―――今の私では行けませんっていうし」
ゼノンさんがそんなことを…。
私は部屋を出てから、ゼノンには会っていない。私も、若干彼に顔を合わせづらかった。
黙っていた私に、「なんかあったんだな」とランジットがいう。それに何と答えたらいいのか。
「――――俺、シエナなら絶対聖都に来ると思ったんだ。そう思っていたのは俺だけじゃなくハイネンもだったみたいだがな」
「そ、そんな」
「ちょっと、嬉しかった」
「えっ」