とある神官の話
嬉しかった、って?
何故か照れているような素振りを見せ、深い意味はないんだぜ、という言葉にさらに疑問符。
「知っての通り、あいつの父親は義理とはいえフォルネウスさんだ。そういうのを知っている連中はこいつ自身じゃなくて、その背後を見られて近寄られることも多い。だからなんというか、顔見知りは多いが友人は少ない――――シエナは、今は友人として心配してくれたんだろ?ゼノン・エルドレイスっていう個人として」
そう、か。
"同じ"なのか。
私も、"あの"セラヴォルグ・フィンデルの…と囁かれることもあった。不躾な目。あれが嫌いで、一人でいたことも多かった。それだけ父は凄い人だったとわかったが、なら私は何だろうと考える。血の繋がらない、娘。私は何だろう。
ゼノンはどうだったのか。
彼はエリート街道まっしぐらの一人だ。それまでにきっと様々な努力をしたのだろう。
――――認めて、欲しい。
私は、そう思ったことがある。父じゃなくて私を、と。
ちらりと目覚めない彼を見る。
術式をくらった、といっていた。呪いのようなものだと。
まるで眠り姫だ、などと思った「なあ」
「ぶっちゃけ―――どうなんだ?」
「何がですか」
「――――こいつのこと、どう思ってるのかなって」
つまりそれは、ゼノン・エルドレイスが好きかというような意味だろう。
いきなりそんなことをランジットに言われ、私は焦った。それよりもランジットが僅かに顔を赤くして「こんな話をするのは性にあわないな」と髪の毛をかいた。
「こいつ、本気だぞ」
「―――」
「それにどう答えを出すかはシエナ次第だ。けど、こいつの気持ちは受け取ってやってくれ」
「……この人、馬鹿ですよ」
ランジットがん?と首を傾げる。
私を、私なんかを好きだといって。過去も知って、私を助けて。
それは、といいかけたランジットに「わかってます」て私がそれを遮った。
わかっている。
私がそれに、気付きたくなくて無視していただけ。
怖いから。苦しいから。
「怖いんですよ。私は臆病で、自信がない。そしてこの人は、優しすぎるから」
そう返した後だった。
ランジットが「……好きなのか?」と呟くようにそっと聞いてきた。
だがそれに私は答えることなくはぐらかした。たぶん、それがもう、答えになってしまっているのだろう。ランジットはただそうかといったきり黙り、すこし出てくると部屋を出ていった。
ランジットがいない今は、部屋を出るのは控えるべきだろう。外には武装神官がいるが、迷惑はかけられない。
ランジットのことだから、今の話は秘密にしてくれるだろう。例え話した所で、私は答えをはっきりしていない。
それは――――狡いものだ。
恋…恋だなんて、私はしたことがあっただろうか。
ゼノンは私を追いかけるようになる前、女性に興味はなく、かなり真面目だったらしい。名前くらいなら私も知っていたが、まさか"あの"ゼノン・エルドレイスに追いかけられるようにるだなんて思ってなかった。きっと回りもそうだろう。何故?と。
私は美人だなんていう言葉から遠い。スタイルが良いわけでもない。胸なんて悲しいくらいないし、身体中には傷ばかりが残って醜いだろう。