とある神官の話
俺は、この関係が壊れてしまうのが怖くて。でも思えば、変えないと進まなかった。当たり前のはなしだが。
しかも、だ。
ゼノン・エルドレイスは、文句なしだった。エリートで、能力持ちの、イケメン。うわあ俺女顔!くっそ負けてるじゃねえかよ、だなんてな。
あいつはシエナの過去を知ってもかわらなかった。
むしろ、知ったから余計に守ろうとした。それだけでも、すげえよと俺は正直思う。お前、中々の男だなと。
「聖都に、行くなって言ったんだよ――――行くだろうなってわかってて、行けるようにしてやってた癖に」
「お前……」
バルニエルにいれば、アーレンス・ロッシュらがいる。事情を知るものたちがいて、今なら聖都よりも安全なはずだった。
それを、わざわざ危険なところに行かせるだなんてどうかしている。
俺は、男として見られない。
腐れ縁、としか。
ファーラントが「馬鹿め」という。随分迫力のない罵声だった。
「あいつはいつか、自分の気持ちに気がつく。今はまだ揺れてるが、いつかは」
「レオドーラ、お前はそれでいいのか?」
「さあなぁ…」
「おい」
俺は――――――。
シエナが揺れていることに気づいて、どうしようか考えた。だが答えなんていうものは出なくて、さらにぐちゃぐちゃになるだけだった。
なら、考えるのをやめてやる。
「ただ、あの男がシエナを泣かせたり傷つけたなら俺は容赦しない」
「つまりあれか、身を引くのか。全く…お前というやつは」
「な、なんだよ」
ため息ををついた姿が、アーレンス・ロッシュに見えてどきりとする。
男同士で、信頼しているからこそ話したこと。かなりあれだが、仕方ない。
いたたまれなさに我慢仕切れず「じゃあまたな」と逃げるように立ち上がれば「お前は」と背後から声がした。
「いい男だな」
当たり前のだっつうの。
そんな言葉をおいて、俺はその場から逃げるように去った。
* * *