とある神官の話





 ――――見事、だった。


 金色は、こちらを振り替える。フードを被っていたのを邪魔だと取り去る。
 女、だった。
 しかし身なりは酷いものだった。神官でも、戦闘用の動きやすいものだったがかなりくたびれ、またはぼろぼろだった。顔にもやや疲労の色が見えたが、アガレスよりはましであろう。





「アガレス・リッヒィンデル……何故こんなところに?いや、待て。今はそれより―――――お前に確かめたいことがある」

「……お前は」






 何者だ?
 いきなり姿を見せ、アガレスのことをわかっていても、幽鬼の方を先に潰した女。そして、アガレスを見つめる女は「アゼル・クロフォード」と名乗った。






「お前があんな事件を起こすきっかけは――――黒幕はアンゼルム・リシュターで間違いないのだな?あんな……くそったれな実験をして、組織化していた黒幕は」

「何故」

「私の可愛い可愛い後輩が、くそったれな実験の被害者なんでね。それで?あってるのか?」





 迷った。だがアガレスは短く返事を返すと、アゼル・クロフォードは満足げに頷いた。
 被害者、といったが…。
 考えられるのは、やはりあの馬鹿…ハイネンだった。様々なヒントを与えたつもりではいたが、さすがだった。あのリシュターのことを知っていて、アガレスを殺そうとしないなら――――。

 被害者というのは、あの子か?

 酷い怪我だ、とアゼルは洩らしたがすかさずナイフを投げた。悲鳴。今度はどうやら魔物らしい。
 アゼルが舌打ちをし臨戦しようと構えたが、それをまた新たな何かが登場した。
 それは、猛火。
 焼き付くす炎である。
 それはかなりコントロールされ、かつ目的のもの意外を燃やすことはない。意思をもったように魔物だけを炎に包み込んでいく。

 いきなりのそれに、アガレス・リッヒィンデル自身がついていかない。怪我のせいもあるのだろう。思考が鈍る。木々のなかに現れる赤や橙は鮮やかな紅葉を思わせた「遅い!」

 鋭くそう言葉を発したアゼルに、魔物を焼き払ったであろう者が「無茶いうなよ」と疲れた顔をしていた。
 見たことがあるような気がした。
 


< 611 / 796 >

この作品をシェア

pagetop