とある神官の話




「いきなりどっかに消えるって、勘弁してくれよ―――――!?」

「煩いぞ、ファムラン」

「ど、どうなってこうなったんだ?」





 アゼルが口に出したその名は、記憶にあった。
 確か―――ラッセル・ファムラン。
 私が起こしたあの事件に関わったとされて、投獄されていた男だ。前に一度、そう、あの子がいたときにも見ていた。
 無罪となったのはよいが、失われた時間が戻ってくることはない。
 ああもう、とラッセルが顔を手のひらでおおっている中で、アゼルだけは凛としてそこにいた。





「あのミイラ男…もといヨウカハイネン・シュトルハウゼンらが叩き潰そうと今動いている。しかしやはり、こちらは不利だ」





 ハイネン。
 友の一人が、同じく戦っているということにアガレスは僅かに口許を緩ませた。ミイラ男、というのは恐らく包帯をやたらむやみに巻きすぎるからだろうと想像できる。

 木に背中を預けているアガレスのすぐ近くに、アゼルはしゃがみこんだ。片膝を地面につきながら、真っ直ぐアガレスを見つめる。
 意思の強い目だった。
 




「一緒に来てもらおうか」





  * * *




 春先、最ももう夏に近いだろうが…天気だけは変わらずに良い。
 これからまた、暑くなるのかと思うと…とレスティ・ムブラスキは毎回思う。

 ヴィーザル・イェルガンが重傷――――だなんていうことがあってから、ここノーリッシュブルグにいる神官らもピリピリしているのがわかる。それもそうだ。あのミスラ・フォンエルズの命もある。
 口止め、か。
 フォンエルズ枢機卿が治療を受けるヴィーザル・イェルガンを見ながらそう呟いていたのを、治療をしていた一人であるレスティは聞いていた。





 
< 612 / 796 >

この作品をシェア

pagetop