とある神官の話



「すみません。その、大丈夫ですか」

「おう。悪かったな、からかって」





 やっぱりからかったのか。
 じと目で見た私に「だって」とランジットが少しだけ視線を泳がせる。





「もしかしたら、シエナがゼノンにキス―――――すみませんでした何でもないです」





 アーレンス・ロッシュじゃないが、"緑化"してやろうかと思った。それかたらいを落とすとか。
 しかしランジットが床に正座して謝ったので、よしとする。

 はたからみればそう見えたのだろうか。そう考えてまた熱くなる。キ、キスしようとしているように見えるのかもしれなくもないかも――――。
 とにかく、だ。
 変なことをいわないで欲しい。


 ――――会議は、二日目である。
 やはり長引いているようで不安さが増す。ハイネンらがあれこれ言っているらしいことは耳にしたが、ハイネンらには会っていなかった。






「さて、取り敢えず行くか?」

「……本当にいいんですか?」

「おうよ。ただし、俺ともう一人護衛がついて、かつ長居は出来ないけど」






 ゼノンにかけられた術式は、会議が終わらなければなんとも出来ない。もどかしいが全ては会議が終わってからなのだ。
 私はたまたまブエナはどうしているだろうかと洩らした。
 それをランジットが「行けるか聞いてみるか」といったのである。

 こんな状況で、私がうろつくのはあまりよくない。何故。決まっている。私は、ヴァン・フルーレの件以前に"危険分子"と判断されていたこともある。
 そして、そう。
 古い術式、あのアレクシス・ラーヴィアが奪われぬようにした、術式の"生きた管理者"
なのだ。
 はっきり何なのかさっぱりわからないものの、ヤヒアらにまた何かされかねない。今はアンゼルム・リシュターも姿を消して、各地では奇妙な事件が続いている。だからおとなしくしていたほうがいいとわかっていた。


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