とある神官の話
だから行けるだなんて全く考えてなくて。
ランジットがわざわざ会議中のハイネンに連絡を取り、許可を得たと聞いたときにそんな、と思った。
じゃ行こうぜ、とランジットが部屋を出ていくので私も慌ててそれを追いかける。
同行する教皇直下の武装神官と合流し、街中を歩く。聖都だから固まって歩いていても目立たない。
そのまま道を進み、ブエナのいる孤児院に到着する。そこでランジットらが絡まれているのを見ながら、建物から出てきたブエナが出迎えてくれる。
「シエナ!」
「久しぶりです、ブエナさん」
背後にはこどもたちに絡まれている二人を見て、ブエナが「何かまた、あったのかい?」と訪ねてくる。
絡まれながら「こっちはいいから」とランジットが片手をあげたのに甘えて、私と同じくらいブエナは建物の中へと入った。
宮殿で何があったか知らないだろうが、ここ最近各地で起こっている奇妙な事件については新聞にも載ったため、知っているだろう。
何故、会いたくなったか。
私にもわからない。
「なんていう顔をしてるんだい」
何を話せばいいのか。
言葉が出ないまま突っ立っていた私は、思わず自分の顔に手を触れさせた。どんな顔をしているというのか。
いざとなると、言葉は出ない。
会いたくなった、といえばいいのだろうけど、それさえ私の唇から出ない。
「今日は、エルドレイスさんじゃないんだね」
「――――ブエナさん」
「うん?」
「私は」
――――大切に思われてもいいんでしょうか。
父がいなくなって、アーレンス・ロッシュのもとに世話になって。あの兄弟が羨ましくもあって、母というそれに少しだけ寂しさを覚えても、私は歩かなくてはと思った。父は死んだ。何故。私を助けるために。私なんかのために。
父も、アーレンスも、兄弟も私の傍にいたけれど、私はどこかわからなくなって、怖かった。
父が一番大切だったのに、それはなくなって。
大切にすればするほど、失う怖さがあった。