とある神官の話





 触れないで。入ってこないで。あたたかくしないで。やさしくしないで。大切になんか思わないで。
 そう思うよりも強く、それらの逆を望んでいる自分が馬鹿みたいに思えて。馬鹿。馬鹿じゃないの。私は、そんなんじゃない。そんな風にしてもらう価値なんてない。だからそんなことをいわないで。包み込もうとしないで。

 何度も、好きだといわないで。






「馬鹿だねえ」






 ブエナの優しげな声がした。体があたたかくなる。






「失うことは怖い。何だってそうだよ――――だからいつも胸に留めておくんだ。いつどこで何があるかわからないから、一つ一つ大切にしようって。何を選んでも後悔するなら、全部大切にしようってね」





 
 あのとき、ああしていたら。
 そんなことはいつもある。
 いくら後悔しても過去は変えられず、何も戻らない。前を向くしかなくて。泣きながらでも、痛くても、歩いていかなくてはならないのを、私は知っている。

 ――――シエナさん。

 あの人は、私を呼ぶ。シエナさん。ふざけたようなことをいったり、口説くからといってみたりして。
 嫌じゃない。
 むしろそれは、むず痒くて、あたたかだった。

 ―――本当は、わかっていた。
 私は、多分……。






「……すみません、変なことをいって」

「いいんだよ。さ、また何かあるんだろ?戻ったほうがいい」






 入り口に戻ると、護衛二人がこどもたちにもみくちゃにされていた。
 じゃたまた、といったときの「頑張るんだよ」というブエナの言葉に強く、私は頷いた。
 


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