とある神官の話




 もういいのか?というランジットに頷き、再び宮殿へと私たちは戻る。

 結局のところ、私はブエナに何を話にいったのだろう。そう考えると、自己確認のためなような気がする。誰かに何がいって欲しいだなんて甘えだろうが、胸にくすぶる何かひとつでも出してしまいたかったのだ。
 ブエナは、母親みたいな存在だから。
 けれどブエナは母親じゃない。孤児院の子供たちの母親だ。
 二十歳をすぎたら、もう立派な大人だ。しっかりしなきゃ。アーレンスに頼ってばかりはいられない。一人で、頑張らないと。

 けれど。
 たまには、いいよね。
 そう自分に言い聞かせる。


 ――――会議はどうなってるのか。
 どんな結論が出るにしろ、私たちはそれに従うしかない。
 孤児院から戻ってきて数分くらいたったか。控えめなノックがされ、それにランジットが答えた。開かれるドア。入ってくるのは枢機卿で、キース・ブランシェであった。彼がここに来たということは会議は終わったのだろうか。






「おい顔色が悪いぞ」

「……フォンエルズ枢機卿とハイネンが参加していたからな」

「あー、つまりカオスだったわけか」






 いつだったか会ったミスラ・フォンエルズを思い出す。毒舌大魔王。確かに枢機卿らさしらぬ発言をしそうな人だが、悪い人ではない。自由人、とはいえそうだが。
 そんな人と、ヨウカハイネン・シュトルハウゼンが会議中何を言ってやらかしたのかはわからないが、キースの顔色からにして凄まじかったのではないだろうか。
 苦労人、である。

 それで?とランジットが更に問う。






「ジャナヤへ先遣隊を向かわせることにった」





 謹慎中であったアンゼルム・リシュターは行方不明。
 ジャナヤに駐在していたはずの神官らと連絡がとれないこと…――――。

 何故姿を消したのか。
 ジャナヤは?

 ハイネンらはアンゼルム・リシュターの裏の顔について、またあのアガレス・リッヒィンデルが起こした事件の理由についてなども話したらしい。
 枢機卿、神官に広がる闇だ。
 リシュターの行方もそうだが、ジャナヤでいったい何があったのか……。それを確かめるために先遣隊を出すという。あの場所はウェンドロウの件もあったしそれよりも前のこともある。
 連絡がとれないとなると、そこにいた神官らに何があったと考えるのが普通だ。
 先遣隊が何を知り、聖都に戻ってくるかわからないが、武装神官らを派遣することになるという。


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