とある神官の話





 青々と広がる空だけが、何もかも平和そうに思わせるように綺麗だった。
 



 ――――そこは古い教会である。

 前にこの辺りで魔物が出て、それを討伐したのを思い出す。小さな村だった。
 そこにいた老神官はとてもよい人だった。少しは聖都にいるやつらも見習えといいたくなるほどで、近くに来たらよってくださいといわれた言葉を思い出した。

 仕方ない。
 彼女―――アゼル・クロフォードはいつまでも野宿をしていられないし、かつ休める場所が欲しかった。
 幽鬼、魔物、闇堕者に追いかけられつつ合流した男もまた、それらに追いかけられていた。二人とも疲労していた。
 そう思った時、何の冗談だといいたくなる相手と遭遇したのである。


 アガレス・リッヒィンデル。



 "事情"を知る今となっては、いい参考人である。
 アゼルは老神官に頼み、教会に場所を借りたのだった。村周囲に幽鬼等を防ぐために封をし、それぞれ怪我の手当てをした。
 あの指名手配犯とはいえ、手負い。ラッセルとアゼルの二人ならばなんとかできる。だが、アガレス自身敵意はない。
 目的は、大体同じだからだ。
 老神官の好意をうけ、アゼルたちは一先ずその場で休めることになったのだが。

 
 とにかく、情報が欲しい。


 アゼルはまず、聖都に連絡を取ることを考える。最新の情報を知っていて、また口が固く、信頼できる相手といったら誰か。アゼルは数人の顔を思い浮かべた。
 





「誰に電話かけるんだ?」

「信頼出来る馬鹿に」






 ラッセルは誰だ?と首をかしげていたが、アゼルは覚えている番号をいれる。呼び出し音。
 早く。早く。早く出ろ馬鹿。
 なかなか出ない。別の人にかければよかったのかもしれない。だか、アゼルはその者から聞きたかった。

 それが、何を意味するのか。
 アゼルは知っていてまた、知らないふりをする。



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