とある神官の話





 何度目かのかけ直しで、ようやく『はい』という声を聞いた。
 その声にわずかにほっとして、苛々が爆発した。それは、そう。アゼル自身八つ当たりと、少しの甘えだとわかっている。





「とっとと出ろ馬鹿男!へたれ!胃痛持ち!」

『……アゼル、か?』

「アゼル・クロフォード以外の私がいるなら逆に知りたい」





 電話の相手は――――キース・ブランシェだった。
 すると、だ。
 アゼルは一瞬受話器を耳から放した。聞こえるのは、無事でよかった何があったのかなどという慌てたような声。ああ、あいつらしいとアゼルは思う。
 心配してくれたのか、と。
 聞いてるのか、というような声がしてようやく「煩いから少し落ち着け」といってやる。





「キース。最近なにか起こったか?新たな情報があるなら教えて欲しい」

『ああ―――――厄介なことになっている』






 まず、だ。
 あのアンゼルム・リシュターが姿を消したこと。アゼルの不愉快さが増す。
 それから、あのジャナヤとの連絡がとれないこと…――――。
 最悪だ、と電話越しに聞こえるキースと「最悪だな」と同意するアゼル。
 何故姿を消した?
 何の目的だ?
 アゼルは眉間に皺を寄せた。事態はよくない。わかっている。リシュターが黒いことは知っているが、何故。各地で闇堕者が死んだりした奇妙な事件と、アゼルらを追いかける幽鬼ら。やはり関係があるのか。
 アゼル自身、何かしら動いたから狙われたとは考えていた。まさか、謹慎中だったリシュターが姿を消すとは思ってなかったが。

 それから、まだある。
 あのストーカー…もといゼノン・エルドレイスが何者かに術式を食らった、ということだ。
 あの馬鹿。アゼルは舌打ちをしたくなる。
術式は解除するまで時間がかかるとか。





「それで?」




 聖都では会議が開かれた。その会議にキースとハイネン、急遽ノーリッシュブルグから来たミスラ・フォンエルズも参加した。
 会議は長引いた。
 

< 622 / 796 >

この作品をシェア

pagetop