とある神官の話




『伏せることはいいとして、これからどうするつもりだ?』

「情報収集と策を練る―――――じゃあな、キース」

『!気を付けろよ』







 電話は切られた。
 静かな室内に沈黙。質素な家具しか置いていないシンプルな部屋で、ラッセルとアガレスもまた沈黙を守る。

 だがそれを破ったのはラッセルで「お前さん、ずいぶんそっけないな」と発した。
 こちらが話していることは、二人とも聞いていた。確かに私は用件のみで、そっけなかっただろう。アゼル自身それはわかっていた。だが他にどうすればいいのかアゼルにはわからない。それに……キースはわかっていりるからこそ、受け身だったのだ。

 腹立つのは、そう。
 ラッセルが意味深な笑みを浮かべていたことである。
 こいつ、とナイフでも投げてやろうかと思ったがやめる。無駄なことはしたくないし、面倒だ。怪我の手当てはしたとはいえ、体はまだ休めていない。
 疲れているのだ。
 ナイフのかわりに溜め息が出る。

 そんな疲労を無視して、かつ振り切るようにアゼルは椅子に腰を下ろし「キースからの話だと」と話し始めた。
 リシュターが姿を消したこと。ジャナヤ。それからゼノンのこと。
 ラッセルも、そしてまだ傷が癒えないアガレスが耳を傾ける。






「ジャナヤ、か……」






 アゼルが話した情報は、別にアガレスに知られてもよかった。
 むしろ、知っていた方が良い。
 危険ではないとはいえない。だが、今ならばもう彼よりもあのアンゼルム・リシュターのほうが危険だろう。

 ラッセルがそう呟き、ウェンドロウの時のことを思い出しているのだろう。
 あの土地は――――穢れている。
 なにかを起こそうとするなら、良い場所だろう。
 沈黙が部屋に落ちる。
 話す方も聞く方も、精神的にくるものがあった。






「――――俺が知っていることをまずは話そうと思うが、いいか?」

「ああ」


 


 沈黙を破ったのはラッセルで、表情は固い。
 
 




「――――リシュターの出生関係だ」


< 624 / 796 >

この作品をシェア

pagetop