とある神官の話
『伏せることはいいとして、これからどうするつもりだ?』
「情報収集と策を練る―――――じゃあな、キース」
『!気を付けろよ』
電話は切られた。
静かな室内に沈黙。質素な家具しか置いていないシンプルな部屋で、ラッセルとアガレスもまた沈黙を守る。
だがそれを破ったのはラッセルで「お前さん、ずいぶんそっけないな」と発した。
こちらが話していることは、二人とも聞いていた。確かに私は用件のみで、そっけなかっただろう。アゼル自身それはわかっていた。だが他にどうすればいいのかアゼルにはわからない。それに……キースはわかっていりるからこそ、受け身だったのだ。
腹立つのは、そう。
ラッセルが意味深な笑みを浮かべていたことである。
こいつ、とナイフでも投げてやろうかと思ったがやめる。無駄なことはしたくないし、面倒だ。怪我の手当てはしたとはいえ、体はまだ休めていない。
疲れているのだ。
ナイフのかわりに溜め息が出る。
そんな疲労を無視して、かつ振り切るようにアゼルは椅子に腰を下ろし「キースからの話だと」と話し始めた。
リシュターが姿を消したこと。ジャナヤ。それからゼノンのこと。
ラッセルも、そしてまだ傷が癒えないアガレスが耳を傾ける。
「ジャナヤ、か……」
アゼルが話した情報は、別にアガレスに知られてもよかった。
むしろ、知っていた方が良い。
危険ではないとはいえない。だが、今ならばもう彼よりもあのアンゼルム・リシュターのほうが危険だろう。
ラッセルがそう呟き、ウェンドロウの時のことを思い出しているのだろう。
あの土地は――――穢れている。
なにかを起こそうとするなら、良い場所だろう。
沈黙が部屋に落ちる。
話す方も聞く方も、精神的にくるものがあった。
「――――俺が知っていることをまずは話そうと思うが、いいか?」
「ああ」
沈黙を破ったのはラッセルで、表情は固い。
「――――リシュターの出生関係だ」