とある神官の話
出生?
アゼルは眉を潜める。
アンゼルム・リシュターはリムエルという種族の男である。出身はノーリッシュブルグの近郊にある小さな村で、現在は隣村と合併して名前が残っていないという。
両親ともリムエルで、純血。
彼は両親のもとですくすく育つ。
しかし、彼の幼少期に事件が起こる。
――――行方不明となったのである。
その日もいつもと変わらず、アンゼルムは遊びに出掛けた。彼は活発なこどもで、よく村のこどもたちと遊んでいたので両親もさほど気にしなかった。
しかし、彼は家に帰る時間になっても戻らず両親と村の人は捜索に出た。
何者かに拐われたか、魔物にやられたか。両親は必死に探したが見つからず、嘆き悲しんだ。
それから一ヶ月ほど、だったという。
村人がたまたま、村の入口にぼんやりと立つアンゼルムを発見したのは。
何があったのか。
もちろん両親も村人も彼から事情を聞いた。だが―――彼は何も言わなかった。相当なショックを受けたのではないかということだったが、アンゼルムの両親からすれば生きて戻ってきてくれたことが最大の喜びと安堵であった。
しかし、アンゼルムの様子が以前とは異なっていたという。
あんなに外に遊びに出歩いていた彼が、急に大人しくなった。そして勉強だなんて嫌いだというような少年であったのに、真面目に勉強をするようになった。
何が彼をそこまでさせたのかわからなかったが、いつしか少年は――――神童と囁かれるようになる。
剣術の腕もなかなか、頭も良い。
そんな彼は多くの職業がある中で、何故か神官にることを選び、今に至る。
「――――っていうのはまあ、調べたりすればあっさり知れる話だ」
ラッセルの話したのは、比較的知られた彼の過去だ。"優しき賢者"などと呼ばれるようにるまでさらに色々とあるのだが、まあ省くぞとラッセル。
アガレスは無言のまま目を閉じたまま聞いていた。知っているのかどうかはわからない。知ってて、わざと話さず試しているのかも知れない。一番知っているのは間違いなく、このアガレス・リッヒィンデルなのだ。
何がなんでも、引き込む。
それで?とアゼルは続きを促す。
「ここまで知ってて、気になるのは行方不明になったっていうことだ。そして戻って来たと後、少年は性格ががらっと変わる――――ちょっくら当時のことを知る人はいないかと思ってな」
「村に行ったのか?」
「ああ。おつかいのついでにな」
合併したとはいえ、小さな田舎の村であるのは変わりがなかった。若者はやはり都心に出てしまうため少なく見えた。
そんな中、ラッセルは片っ端から話を聞いて回った。
合併しても、やはり村の衰退は免れなかった。当時住んでいた者、とくに合併され名前が消えた方に住んでいた村人はほとんど姿がない。