とある神官の話





 ―――それは昔から存在していた。


 それを動かせる、また支配していたトップの者は代々、その地位を誰かに譲ることになる。当たり前だが、どんな種族でも必ず死ぬからだ。
 その現在のトップが、アンゼルム・リシュターとされていた。
 そうなると彼は先代から譲られたという ことになるが、実際はそうではなかった。

 彼は、当時のトップにいた者を殺害し、のしあがったのだという。
 殺害されたのは、ヒーセル枢機卿の師にあたるものと言われたが、定かではない。
 





「リムエルだとして、寿命は我らヴァンパイアよりは短い。奴が生きている年齢よりも遥かに昔の術式や技術、実験方法も容易く操作するというのは気になる――――魂を移すという術は、かなり昔に破壊されたらしいが、それを引っ張りだし研究していた愚か者らがいた」






 知っているだろう?
 そう言われ、ラッセルとアゼルは頷く。
 不完全だったからこそ、彼らは破滅したのだ。
 彼らなりに研究した結果、なのだ。






「しかしことごとく破壊されたそれは、研究していた現代でも不完全だった。不完全でもある程度形となっているから、当時の術が再現されるのも時間の問題かも知れないが、な」

「つまり、なんだ」

「アンゼルム・リシュターは、あのアンゼルム少年の体ではあるが――――中身が違う可能性がある」

「おい!それって―――――」







 思わず立ち会ったラッセル。アゼルもまた舌打ちをした。
 もし、だ。
 アゼルやラッセルは、失敗したやつらを知っている。ウェンドロウ、ハインツ……。不完全とはいえ、全く別人となっていたそれ。

 彼らは、不完全だった。
 彼らの術は、不完全だった。

 もし、不完全だというそれが、実は復元されていたなら?―――。


 アゼルとラッセルは言葉を失った。皆が知るアンゼルム・リシュターが、実はアンゼルム・リシュターではなかった……?中身は全くの別人であった……?
 確かめる術がないからなんともいえないが、可能性があるのなら視野にいれるべきだ。

 ―――――どうする。
 アゼルは考える。どうする。どうすればいい?
 


 アガレス、ラッセル、アゼルのいるその場に沈黙が落ちる。





  * * *







 
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