とある神官の話
先遣隊は罠などのことも考え、転移術で直接ジャナヤへ、とはいかなかった。
ジャナヤへ向かうルートを考え、かつそのルートもまたいくつか用意している。何があるのかわからないからこそであった。そういうことがあって若干もたついたものの、彼らは出発したのである。
――――眩しく照る日差しに、私は目を細める。
神官服も夏用を引っ張り出した。とはいえ、"神官"なので露出はないためやはり暑い。
キース・ブランシェ枢機卿の命で、私はランジットと武装神官らと聖都の駅にいた。さすがは聖都の一番大きな駅。人が多く行き交う。
何故駅にいるのか。
それはとある人物を迎えるためであった。
その人物というのが――――ヴァン・フルーレからやってくるエリオン・バーソロミューである。第二のハイネンとまで言われる変人であるが、術式やらを研究している神官であり、顔見知りであった。そんな彼を迎えた理由はひとつ。
そう。
あのストーカー予備軍のためだ。
駅で待っていると、改札を抜けてきたエリオンを発見。向こうもこちらに気がつき足を進めた。
「あれ?」
エリオンがはて、とこちらを見て首をかしげた。「フィンデル神官?」と言われたので、実は、と私は返そうとする。
何故私がここにいるのか。
自分でもなんと言うかわからない。ただ、心配だっただけ。あのストーカー予備軍…ゼノン・エルドレイスが。
行かなきゃ、と思ったのだ。
エリオンは私がヴァン・フルーレの件のあとバルニエルに居ることになったことは知っているはずだ。バルニエルにはアーレンス・ロッシュらがいて、事情も知っている。バルニエルにいれば"安全"だった。
だからこそ、あのアンゼルム・リシュターが行方不明になっている今、聖都に私がいるというのは些か危険性がある。エリオンが疑問に思うのも無理はない。
それにはランジットも説明(といっても難しい)しようとしたらしい。あのな、と口を開いた。
「察してくれ、色々と」
「あー……そうか、先輩か」
「あの」
「いいなあ先輩。モテモテで」
ランジットのそれは、もはや答えをいっているようなものだ。察しろ、の言葉の意味がないではないか!
ただでさえ暑いのに、更に暑さが増した。
エリオンの羨望(何で)とにやつくのを隠しているランジット(ちょっと腹立つ)両方の生暖かい視線を浴びつつ、私は「い、行きますよ!」と切り上げた。