とある神官の話
エリオンが頷き、さらに何故かこちらを見て「顔」という。顔?
「心配、という顔をしてますよ」
「!」
「ふふ。大丈夫ですよ。先輩のことは任せてください」
「―――お願いします」
お願いします、だなんてちょっとおかしい気がする。だけど、私が今ゼノンにやれるはない。
私が出来るのはここまで。
去り際にエドゥアール二世が「心配なさんな」とにかっと笑ってみせた。それに思わず笑みがこぼれ、礼をして部屋を出る。
エドゥアール二世だって心配だろう。あのゼノンの養父なのだから。
養父として、ゼノンが私にその、想いを寄せることに関してはどう思っているのだろう。養父とはいえ、教皇という身分。そして私の過去知っている。知っていて、どう思っているのだろう。
あまり本音では良く思っていないのではないだろうか。だって、私は……。
私の父は、私がいうのもあれだが変わり者だ。
そんな父は、私を大切にしてくれた。可愛がってくれた。いろんなことを教えてくれた。
父ならどう思うのだろう。
君はいつか私のもとを離れる。恋人だって出来るだろうし、結婚だってするだろう。私としてはやはり複雑だが、君が幸せなら私はそれでいい。君は、幸せになる権利がある。誰もが幸せになる権利を持っている。あー、ウエディングドレス姿は綺麗だろうね。あ、やっぱりなんか惜しいな―――。
あまり参考にはならない、か。
思い出して懐かしい痛みと笑み。
昔は、父のことを思い出すと泣きたくなった。制御出来ないくらい。涙が流れてどうしようもなくて。
そんなとき、アーレンス・ロッシュは抱き締めてくれたっけ。それから兄弟だって私に構ってくれたし、レオドーラ・エーヴァルトとも仲良くなって。
――――生きるんだよ、シエナ。
生きてるよ。
生きてる、けど。
――――エリオンか聖都に到着し、彼を含めた者らがゼノンにかけられた術式の解除にかかる。
* * *