とある神官の話
一部始終見ていたが、なんだこれとしか言いようがない。
大丈夫ですか、と控えめに聞けばやや興奮していたのを誤魔化すようにああ、といい「すまないな」と笑った。続けて「プリンが」ともらしていたランジットもまた、大丈夫だ」と。その赤い瞳には諦めが浮かぶ。
「あの、まだアゼル先輩やラッセルさんの行方は……」
行方不明となっている二人について、やはりブランシェ枢機卿のもとにも情報は入らないらしい。いや、といわれわかっていたとはいえ落胆する。
ブランシェ枢機卿とアゼルが親しい(多分)のは知っている。ブランシェ枢機卿に「だからお前というやつは!」「お、おい!?」というのを見たことがある。何となくだが、ブランシェ枢機卿は……。
あくまでも予想、だが。
人の色恋について、自分があれこれ言っている場合ではないことはわかっている。
ゼノンが目を覚ましたら、どうしてやろうか。あの人のことだ。心配してくれましたか?だなんていいながら笑うのだ。
腹立つ。
腹立つ腹立つ腹立つ!
けど―――それを今、一番望んでいるのだ。
殴るにしろ説教するにしろ、目覚めていなくては意味がない。
「それで?お前こんなに資料持ち出して……!」
「ランジットさん?」
ファイルを開いたランジットが、「おいこれ……」とブランシェ枢機卿の方を見た。
私もそれを横から見せてもらおうと覗きこんだ。
そこには、廃墟。
ただの廃墟ではない。
廃墟だけではなく、そこには―――――「シエナ!」
ふらついた体を支えたのはランジットだった。慌てたブランシェ枢機卿も椅子から立ち上がる。
大丈夫か、という声が少し鈍かったがええ、と頷く。
廃墟と、そこにあったのは無造作に散らばった死体。禍々しい跡。悲鳴。助けて。タスケテ。どうしてこんなことするの。ここから出して。タスケテ!赤。舞う。それは体から切り離されたなにか。ごろりごろりと床に転がり、やがて止まった。
"あれ"を思い出させた。
しかも、なんだろう。
「大丈夫か?」
「今……なんか、その」
「まずは落ち着け、な?」
ランジットが私の背中に手を回す。ゆっくり撫でるそれは、落ち着く。
乱れた呼吸が戻ると、「今」と切り出す。
それは、たった今感じたもの。
あの廃墟の写真などは、人体実験のものだった。何処かというのはわからないが、人体実験といったら――――ジャナヤのこと。
しかし、ただそれだけなら痛みだけ。
こう、ふらつくようなものではない。
今、写真を見て、生々しい"何か"を感じた。