とある神官の話







 ――――いつ消されるだろう。



 一人の枢機卿の中には、それがいつも心に残っていた。
 そして、己はどこで間違えたのかと。

 フィストラ聖国を愛していない訳ではない。むしろその逆だった。大切に思っているからこその動きだった。
 だから、国のためにと思った。
 

 王国時代の古い術式や文献などを好み、研究し、それを活かせたらと思った。たからこそ、危険だとわかっていて――――<神託せし者>に近づいた。

 あれは完全な悪ではない。



 "能力持ち"に対抗するには、力が必要だ。
 月日がさらにたてば、凶悪な犯罪者、"能力持ち"が増えるだろう。良い面もあれば、悪いも面もあるのは仕方ない。だが、悪人は悪人だ。それらを取り締まる側が弱くてはどうにもならない。
 少なからず、そう思ってきたものたちはいたのだ。
 だからこそ、<神託せし者>だなんていうものが存在している ――――はずだった。

 しかし――――。

 ヒーセル自身、<神託せし者>に身を置くようになってからというものの、本心、奥底では恐怖で満たされていた。
 身を置いていても、すべてを知ることは出来ない。知れば知るほど、ぞっとするものを知る。

 トップとして暗躍し始めたものが、信用ならなかった。
 あいつは、危険だ。
 ヒーセルは必要以上に近寄らいようにはしていた。
 まわりはそのトップを"危険"として、そこから引きずり落とそうとするものも出始める。それは今もあるはずだが―――"あれ"がそれを黙って見過ごしているはずがなかった。密かに、手を下していたという。
 
 





「どうせ剥奪されるなら……」






 予定、いや、全てが"あの者ら"によって乱されている。

 破滅させるための布石をいくつかしいていたか、どうなったのか。その一つだったあの、隻腕の剣士ヴィーザル・イェルガンと繋がって動いていたものの、それも駄目になった。ヴァン・フルーレにてヴィーザルが捕まったことにより、ヒーセル自身に何が出来るというのか。

 ヒーセルがあれらを倒すなどとは不可能に近い。それに、と彼は思う。

 現教皇エドゥアール二世は、先代からは引き継ぐようにあの当時、容赦なく摘発し断罪した。あれも、相当な男だ。エドゥアール二世は少々、"あの者"にも近いのかもしれない。あのヨウカハイネン・シュトルハウゼンが感づいているように、それと親しいエドゥアール二世も知っているはずた。


 こうなった以上、ヒーセルの身が危ぶまれる。いや、もう危ぶまれるどころの話ではないだろう。



 残された道は、ごくわずかだ。




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