とある神官の話
真実は解き放たれた。
セラヴォルグ自身が長いこと探っていたことも含めた先にあった、"真実"。
そしてその真実を知ったアガレスは復讐の道を選ぶ。
セラヴォルグは、それをよしとはしなかった。復讐は復讐を生む。連鎖する。だがセラヴォルグだってそういった連中らを野放しにするつもりはなかった。
殺せ。殺せ。あんな連中はもはやヒトではない。
そんな声が自分の奥底にくすぶっていて、悲鳴をあげる。突き刺さり、いくつもの亡者が絡めとり、引きずり込もうとしている。
だが、殺してどうなる。
奴等を殺したとしても、死んだ者は戻らないのだ。残るのは虚しさだけ。
だからこそ、別の方法で裁くべきだと思った。
しかし、あのとき。
アガレスが真実を知ってしまったあの時、全ては砕けた。堪えられなかった。
後悔していた。アガレスが追われる身になるのを止められなかった。彼は止まらなかった。己を犠牲にしても全てを終わらせる覚悟に、セラヴォルグは負けたのだ。
ああ、アガレス。友よ。
彼女は復讐など望んではいないはずだ。
セラヴォルグはアレクシス・ラーヴィアの死から、ずっと痛みを抱えていた。身近な人の死は、重い。そして種族が違えばまた、なおさらその死を多く見る。
ほとんどの者に、置いていかれる。かわりに自分は"生きる"ことを選んだのだ。
自分は、狡い。
セラヴォルグはわかっている。自分はきっと何かしただけで、なにも。
今はシエナに救われていたのだ。
…―――――。
ダンッ――――!
打ち付ける音が強く響いた。その場にいた者らは、その凄まじい勢いと殺気に思わず悲鳴をあげそうになる。
「一体どういうことだ!」
セラヴォルグの怒声は部屋に響き渡る。
空席の目立つ室内で冷静に座っているのは、アンゼルム・リシュターである。他には急遽集まった枢機卿らの姿が数名いて、青い顔をさらしていた。
セラヴォルグの怒りに、リシュター以外の枢機卿らは口を閉じたまま。
セラヴォルグ自身は穏やかな男といえる。滅多に怒鳴る、まして殺気を漂わせることなどなかった。あのアガレスの時だって彼は動揺したが、あくまでも冷静なままだったというのに。
その剣幕に誰もがおされていた。
「今言った通りですよ。君がいた場の住人らは全員死んだのです。何者かに殺害されて」
「何が言いたい?」
セラヴォルグは鋭くそう返す。リシュターは怯まない。
「何故君をこう何日も聖都に留めさせたか。君はもうわかっているはずです」
――――住人全員を殺害。
そんなことこが出来るのは"よっぽど"な者である。
近ごろでは能力持ちの闇堕者もいて、凶悪な事件もある。セラヴォルグがいた場は田舎だ。聖都とは比べ物にならないほどの。
「それで?何故あの子を疑い、かつ私をここに拘束したからには、理解かつ納得できる話がお前から聞けるのだろうな?」
住人全員を殺害できるような力を持つ者――――もっとも近いのはやはり、魔術師の能力持ちであるシエナだ。魔術師の能力は使い手によってはかなりの脅威となるのは知られている。
幼いとはいえ、魔術師の能力持ちでも上位の力を持つなら、そう、"やろうと思えば可能"だろう。
しかし、セラヴォルグ自身がそれをありえないと一蹴する。当たり前だ。ようやく慣れてきたような子が、あの子がそんなことが出来るの筈がない。