とある神官の話
* * *
その場には集まった枢機卿らが席についていた。
空席はあるものの、まあまあな人数がそこにはある。
集められた理由は、そう。
ジャナヤへと向かっていた先遣隊の報告を聞くためである。
枢機卿らが集まって暫くして、略装姿のエドゥアール二世が姿を見せたことにより、それは始められた。
エドゥアール二世の左手、いや両手は今白い手袋でおおわれているというのはあまり見慣れない姿といえるが、それを気にするものは少ない。
――――どうなっているんだ。
出席している枢機卿の一人である、ヨウカハイネン・シュトルハウゼンは報告を聞いて眉をひそめた。
報告にたいして、ああだのこうだのいって進まないのを耳では聞いていたが、一人考えを巡らす。
まず、現在行方不明となっている二人、ラッセル・ファムランとアゼル・クロフォードのこと。
その二人について暫く情報がなかったのだが、ここにきて漸く情報が入った。
直接二人からの連絡がハイネンのもとに入ったというわけではないが、それに近いものといえる。それは第三者から――――キース・ブランシェからハイネンが聞いたものである。
ちょうど、ハイネンはミスラ・フォンエルズと、ヴィーザル・イェルガンがあのヒーセル枢機卿と繋がりを持っていた……などの話
をしていた時のことだった。
部屋にノック音がされたのである。
それには「仕事して下さい!」というミスラかハイネンへ訴えにきた者だろうかと思ったが、訪問者はキースだった。それには若干予想外だったらしいミスラが「なんだお前、また死にかけているぞ」と軽口を叩く。しかし、いつもならあれこれ返してくるはずのキースはミスラとハイネンに向かって「話があります」といったのである。
その様子には思わずミスラとハイネンは、顔を見合わせた。
部屋に招き入れ、キースから聞いた話は――――行方不明となっている二人のことだった。
キースのもとにアゼル・クロフォードからの連絡があった、ということである。彼女はいつも通りの激しさを見せながら、近況を聞いてきたと。
しかも、連絡があったことはまわりには伝えるなと言われたらしい。むしろ死んだことにしてもいいと。切る前にどうするつもりか聞いたら情報を集め策をねる、と。
キースにはいわなかったが、それが本当にアゼル・クロフォードという証がない。とはいえ、偽物という可能性も少ないだろうが、信じきれないというのもある。
わざわざキースに連絡をしてきたのだから、本物だろうとハイネンもミスラも結論付けた。そして「あれにも女らしい部分があるではないか」とミスラは笑っていたのを思い出す。
ゼノンがシエナに分りやすいアピール(とはいえ明後日の方向を向いている感は否めない)をするならまだ理解できるが、あの二人はわかる人にしかわからないというほど、そういう恋愛要素は少ないのだ。
つまり、そういうことなのだろう。
向こうの連中かそんな細やかさな変化、思いを知っているとは思えない。
アゼルは情報を集め、策を練るといった。策を練る。何か"持っている"のか。連絡がとりようがないので何とも言えない。
そしてもう一つ。
それはついさっき聞いた話である――――術式を食らっていたあのゼノンが、無事目を覚ましたということ。
そして、だ。
シエナが行方不明だ、なんて。
彼女は自分のことを、ちゃんとわかっている。痛いほどわかっているはずだ。
だから一人にはならないように、聖都に来てからランジットらと一緒にいた。
いつ、"人形"と入れ替わったのか。
人形だってそう簡単に聖都に、宮殿に入り込めないはずなのだが……。
ちらりとキースを見ると、いつも以上に顔色が悪くなっていた。それもそうだ。キースもランジットも、彼女と一緒にいたのだから。
しかし、キースのせいでもランジットのせいでもない。