とある神官の話




「――――また最初からやり直しか」

「ジャナヤにいた者たちは何一つ覚えとらんとはな……」





 ――――そう。
 先遣隊が報告した内容は、ジャナヤにいた神官らはただ気を失い、その場に転がっていただけだという。あとは特に変わった様子は見られず、というものであったために皆が首を傾げる結果となった。

 ジャナヤに滞在していた者たちに共通することは、皆がそうなる原因の記憶がさっぱりないことである。
 記憶がない、というより消された、というのではないのか。
 本人らに聞ければいいが、記憶がさっぱりないのだから、聞いても意味がない。

 それをああだの言い合っているのだが。





「"何もなかった"訳ではなかろう。なら言っていた通り、前にジャナヤへと向かわせた者らをもう一度確かめに行かせては?」

「しかし、先遣隊は何もなかったというのただ。無駄足だろう」

「それは行ってみなくてはわからないだろう。先遣隊の者は"当時のジャナヤ"を知らぬ。あんな状況になったからには、なにかしらあったはずだと考えるべきだ。幸いにもこちらには当時を知っているハイネンがいる。ここでくっちゃべっているよりマシだ」





 黙っていたミスラがさらりといってのける。前回ジャナヤに向かったメンバーで、今ラッセル・ファムランとアゼル・クロフォードが不在であることも出てくる。

 ラッセルはしかも、罪人として牢屋にいたことがあるのだ。
 無実であったが、"可能性があるだろう"とでもいわんばかりなそれに、ミスラは食いつかず無視をした。意味がないとでもいうかのように。
  そして毒舌大魔王さをさらに発揮していた。





「ただ確かめに行くだけなら、行く人数が多少減ろうが最低限いれば問題ないだろう?最低ハイネンがいれば確かめに行けるしな」

「……それは本物に最低な場合、ですよミスラ」





 流石に、と苦笑したくなる。
 ミスラは全くもって「そのくらいやろうと思えば出来るだろうが、お前なら」といいたげであった。

 しかしまあ、そうだ。

 ジャナヤにいた神官らの無事が確認されたなら、ミスラのいうとおり人数が少なくても問題ないだろう。何もなければの話であるが。
 どうなっているかわからない以上、信頼出来る者が、あるいは己の目で確かめたほうが一番だろう。余計なものがくっついているほうが邪魔となる。それをわかっていて、かつミスラ自身ハイネンのことを理解しているからであろう。

 黙ってしまった者たちを割るように「ならば」と声が発せられる。
 声を発したのはエドゥアール二世であった。





「シュトルハウゼン枢機卿らに任せるが」

「ええ。お引き受けしましょう」





 目があった。
 それはハイネンに頼むぞ、とでもいっているように見えた。それにハイネンは頷き応じる。

 姿を消したアンゼルム・リシュター、人形として姿を見せたヤヒア、消えたシエナ。
 そしてこの会議に欠席していたヒーセル枢機卿が引っ掛かる。

 それぞれ命が与えられ、解散となった部屋をハイネンとミスラ、そしてキースが共に出た。

 問題は山積みだった。
 



< 655 / 796 >

この作品をシェア

pagetop