とある神官の話
「――――また最初からやり直しか」
「ジャナヤにいた者たちは何一つ覚えとらんとはな……」
――――そう。
先遣隊が報告した内容は、ジャナヤにいた神官らはただ気を失い、その場に転がっていただけだという。あとは特に変わった様子は見られず、というものであったために皆が首を傾げる結果となった。
ジャナヤに滞在していた者たちに共通することは、皆がそうなる原因の記憶がさっぱりないことである。
記憶がない、というより消された、というのではないのか。
本人らに聞ければいいが、記憶がさっぱりないのだから、聞いても意味がない。
それをああだの言い合っているのだが。
「"何もなかった"訳ではなかろう。なら言っていた通り、前にジャナヤへと向かわせた者らをもう一度確かめに行かせては?」
「しかし、先遣隊は何もなかったというのただ。無駄足だろう」
「それは行ってみなくてはわからないだろう。先遣隊の者は"当時のジャナヤ"を知らぬ。あんな状況になったからには、なにかしらあったはずだと考えるべきだ。幸いにもこちらには当時を知っているハイネンがいる。ここでくっちゃべっているよりマシだ」
黙っていたミスラがさらりといってのける。前回ジャナヤに向かったメンバーで、今ラッセル・ファムランとアゼル・クロフォードが不在であることも出てくる。
ラッセルはしかも、罪人として牢屋にいたことがあるのだ。
無実であったが、"可能性があるだろう"とでもいわんばかりなそれに、ミスラは食いつかず無視をした。意味がないとでもいうかのように。
そして毒舌大魔王さをさらに発揮していた。
「ただ確かめに行くだけなら、行く人数が多少減ろうが最低限いれば問題ないだろう?最低ハイネンがいれば確かめに行けるしな」
「……それは本物に最低な場合、ですよミスラ」
流石に、と苦笑したくなる。
ミスラは全くもって「そのくらいやろうと思えば出来るだろうが、お前なら」といいたげであった。
しかしまあ、そうだ。
ジャナヤにいた神官らの無事が確認されたなら、ミスラのいうとおり人数が少なくても問題ないだろう。何もなければの話であるが。
どうなっているかわからない以上、信頼出来る者が、あるいは己の目で確かめたほうが一番だろう。余計なものがくっついているほうが邪魔となる。それをわかっていて、かつミスラ自身ハイネンのことを理解しているからであろう。
黙ってしまった者たちを割るように「ならば」と声が発せられる。
声を発したのはエドゥアール二世であった。
「シュトルハウゼン枢機卿らに任せるが」
「ええ。お引き受けしましょう」
目があった。
それはハイネンに頼むぞ、とでもいっているように見えた。それにハイネンは頷き応じる。
姿を消したアンゼルム・リシュター、人形として姿を見せたヤヒア、消えたシエナ。
そしてこの会議に欠席していたヒーセル枢機卿が引っ掛かる。
それぞれ命が与えられ、解散となった部屋をハイネンとミスラ、そしてキースが共に出た。
問題は山積みだった。