とある神官の話
「で、お前はこれからどうするんだ」
立ち止まったミスラが、そう聞いてくる。
ミスラ自身はほったらかし状態であるノーリッシュブルグへ一度戻るということだった。確かに長く空けるのは良くないだろう。それに、ヴィーザルのこともある。彼はあまり情報を持っていないと思われるが、狙われないとは言い切れない。
ならばやはり、一度戻るべきであろう。
もう何が起こるのか、またはすでに起こっているのかわからない。ハイネンにも、そしてだれにもわからない。
「アーレンスには私が言っておこう」
「ええ、頼みます。恐らく激昂するでしょうから」
だろうな、と返したミスラはそのまま暗い表情のキースに向かう。そしてあろうことかデコピンを食らわせたことで「っ!?」キースがいきなりのそれに驚き、軽くよろめく。
それをしたミスラは平然としていた。
「そんな顔ではいじめてもつまらんからしゃきっとしろ。シエナが死んだわけではないのだからな」
「……わかっています」
「お前がしゃきっとしていないと、アゼルが戻った時に殴られるぞ?私は勿論面白いから見て笑ってやる」
「いやあの、笑ってないで助けて下さいよ」
ミスラにいわれた言葉によって、キースがいつもの姿を少しでも取り戻した様子流石、とハイネンは思う。
彼はにやり、と笑うとそのままこちらに背中を向けていく。
――――シエナが消えた。
ジャナヤに神官らは無事であり、自分たちが何故意識がなかったかなどの記憶がないこと以外に何かあるという様子もない。なら、シエナは何処へ連れ去られた?リシュターは?
彼女に眠る術式はそう簡単に取り出せるようなものではないことを、あのヴァン・フルーレでヤヒアは知った。そうなるとリシュターも知ったことになる。いや、ヤヒアとリシュターが完全に仲間だとは考えないほうがいい。ヤヒアはもともとアガレス・リッヒィンデルにくっついていたはずだから。
リシュターは、そしてヤヒアは取り出す方法を知りたいはずだ。しかしその方法は誰も知らない。
知っていたアレクシス・ラーヴィアはとうの昔に亡く、そして可能性が一番可能性高いセラヴォルグもすでに亡い。
取り出せないという術式。
しかし、確かあれでは、そう。シエナ以外は取り出せない、または発動できないといあもので、それは――――。
間違いなく、危険だ。
術式もそうだが、シエナに何をするかわからない。
しかし、なんだろう。何かがひっかかる。ジャナヤではないなら……ジャナヤでのあったあれはなんだったんだ?リシュターがやったのなら、何故。
なにかをやろうとしているなら、場所が必要だろう。
私なら、とハイネンは考える。どうする?何をする?彼らは少しでも可能性があるものならそれを試すはず。普通の場所なら意味がない。
なら、シエナに関わるなにかも……。
「ハイネン?」
足を止めたまま動かないでいたハイネンに、キースの声がかかる。それに「ああ、すみません」と苦笑する。
立ち止まってなどいられない。
まずは、動かなくては。
「行きますよ、キース」
それに頷いたキースをつれ、ハイネンは歩き始める。
* * *