とある神官の話




 もうずっと前に決めているのだ。
 私は彼女を大切に思っていて、愛している。

 ハイネンがいう覚悟は、私自身の命に関わるかもしれないというような、色んなことをひっくるめたものだ。
 しかし、それがなんだというのだ?
 彼女は危険だと思われていた。そして今、最悪の状況である。
 なにがあるか、起こるかわからない。
 全てにそう、覚悟しなくてはならないだろう。

 話したいこともある。
 聞きたいこともある。

 ――――シエナさん。





「私は、"ストーカー予備軍"ですからね」






  * * *



 ――――ゆらゆら。
 何かが揺れていた。なんだろう。

 揺れるのは、オレンジと赤の混じったような色の炎だ。辺りは暗くてよくわからず、見えるのは、炎。
 その揺らめきを見ていると、辺りの景色が姿を変えた。闇は怖いから、ほっとする。

 私は夢を見ているのだろうか。



 自然豊かなその場所。
 家があって、畑かあって、少し歩くと川もある。聖都から見るとここは本当に田舎だった。
 "私"は畑にいた。近所の老夫婦の手伝いのために、よくこうしていた。老夫婦は私を可愛がってくれたし、いろんなことを教えてくれるから、もしおばあさんやおじいちゃんがいたなら、こんな感じだろうかとも考える。
 父は、"普通"を教える。それと"特別"なことも教えてくれた。それは私にとってとても嬉しくて、あたたかなものだった。
 よくわからない力が、能力持ちと呼ばれる者たちの中での、"魔術師"なあたることもしり、私は普通ではないけれど、自分とおなじような人がちゃんといることをしった。私は化物じゃかいと、安心した。父も昔言われたことがあると、聞いたことがある。私はシエナと違うんだ。父は、ヴァンパイア。生きるためには血液を必要とし、寿命もヒトの倍は生きる。

 "違う"けれど、いつかシエナは老いて私よりも、いや、私をおいていくだろうかま、私はずっとシエナの味方でいよう。君が嫌っても、恨んでも、私は―――。
 父のいうそれに、そんなこと、と思った。

 ハイネンよりも歳上ということは、父の年齢は二百ぐらいだろうと今は思う。
 私はちゃんとした年齢を聞いたことがなかった。それは父なりの気遣いだったのだろう。人間は長生きしても百歳とかしか生きられず、しわしわのおばあちゃんになる私と、父は違う。彼らは基本、姿は!?まり変わらない。私がおばあちゃんになったとき、父は青年のような姿のまま。それは、どんなだろう。私は考える。

 父はどれだけの人を見たのだろう。
 そしてその人らの死を見たのだろう。

 父は私を一生見守るといった。けれど、そこには寂しさがあるのを私は何となくわかった。この人はいつだって、と。
 私は思う。



 置いていかれる人も、置いていく人も、寂しい。
 好きよ、といってみる。父さん。甘えるというそれが、私は慣れなくて後ろから抱きついて、いってみる。父は「おや、珍しい」といって「私も好きだよ。愛しの我が娘―――」



 そういった父がふっと消えた。
 父さん。

 私は不安になる。ねえ、父さん。探す。探しているうちに、足元の違和感に気づいた。足へと流れるそれがぴしゃりと足をずらしたことによって音をたてる。それは、血だまり。溢れる血が足元を濡らしていた。何故。私は震える。倒れているのは誰だ。わかっているけれど、信じたくない。

 ―――生きて。シエナ。

 後ずさりをする。
 父のそれは、ぴくりとも動かず、さらさらと消えていく。ああ、待って。逝かないで。消えないで。
 私は血で己が汚れるのも気にせず、かき集めるように手を伸ばし、引き寄せる。無駄だとわかっていても、私は必死に集めようとした。消えないで。消えないで。消えないで。置いていかないで。一人にしないで!





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