とある神官の話
机の上の電話がけたたましく鳴る。
もしかすると、とキースはすぐに電話をとり、その声を聞き逃さないようにする。だが、大したことはないそれに落胆する。
今、アゼルらが何処にいるのかさっぱりだ。キースのもとに連絡が来たことを知っているのは、自分とハイネン、ミスラのみ。アゼルが行方不明のままでいいなどといったためそのままにしているのだ。
アゼルが、シエナが行方不明になっていることを知っているのかわからない。
だが、知ったら……。
キースにとってアゼルは、ゼノンがシエナへ向けているそれと同じものである。なので、ゼノンの気持ちは痛いほどわかる。いや…確かに自分はアゼルを好ましく―――愛している。だが、己はおおっぴらにそれを表に出していない。なかなか出せないのだ。
それに比べてゼノンはというと、見ているこっちが呆れる、または恥ずかしくなるようなほど、シエナに一途だった。しまいにはストーカー予備軍とまで彼女に称されるほどだ。
キースはその部分ではなくもっと、ゼノンを見ていて、あれこそ"愛する"ということかもしれない、と思うこともあるのだ。
彼はまだ若い。エリートというそれが似合っていた男であったし、回りもそう見えていたはずだ。養父はエドゥアール二世、という背景もあり、それらばかりを見てよってくる人々のなかでも、彼は負けずに凛と立っていた。だが、心配だった。
心が休まることがちゃんとあるのか……人を寄せ付けないような冷たさを多く含みつつあった彼を何が変えたのか。
恋、である。
しかも物凄い恋であることを親しい者ならば知っているし、その他もだんだん知るようになってきている。
こういってはあれだが、シエナの過去は悲惨なものである。初めてそれを知ったものは声を失い呆然として、考えてしまうであろうものを、ゼノンが知ったときどうしたか。
彼は、何もかわらなかった。
むしろ、更に大切にした。受け入れ、守ろうとした。セラヴォルグがシエナを娘とし愛したのと同じように。普通なら、いくら好きでも、考えてしまうようなそれを、彼は何とでもないようにけろりとしていた。
――――本当に、大切にすること、守ること、愛することは難しい。
キースの胸は、不安ばかりで埋まっていた。しかし、どうすることも出来ない。ひとつひとつ解決し、自分ができることをするだけである。
キースが一人書類を見ていると、ノックがされた。
入ってきたのは「お疲れのようですね」年配の神官の姿。エドガー・ジャンネスは「少し休憩しませんか?」という。それにキースはうなずく。
「聞きましたよ。大変なことになりましたね」
どうやら詳しい話を知っているようで、「心配でしょう」という。