とある神官の話


 やあ、と久しぶりに見たその人物は、最後に見た時と全く変わらない姿ではあったが、アーレンスには少し違って見えた。見えた、というよりも感じたといってもいい。

 ただの美形、色男ではないことは知っている。
 そして、敵わないことも。



 しかしそれよりも、だ。

 その男の後ろに影があった。隠れるように立つのは、少女。聞いてはいたが会うのは初めてである。
 人見知りをするのか、あるいは緊張しているのかわからないが、その少女を見てアーレンスはわかった。


 この男の纏う"何か"を変えたのは、この少女のお陰なのだろう。



 互いに挨拶をかわした後、アーレンスの後ろから顔を出したのは末の息子クロイツだった。男を見ると抱きついていくそれに、男は受け止める。遅れて姿を見せた長男ファーラントもまた、彼を見て表情を和らがせた。
 子供がいるわけではないが、元々子供好きなのか、扱いが上手い。

 しかし、いきなりの登場に少女は困ったように男のそばにいた。


 子供というのは不思議なもので、ひょんな会話から仲良くなるらしい。
 歳はクロイツと同じくらいだろう少女は、ファーラントとクロイツに引かれるよう外へと出ていった。男だからどうだろうかとアーレンスはやや不安であったが、少女はどうやら気にしないらしく笑顔をちらつかせているのが見えてアーレンスはほっとした。
 少女は、様々なものを抱えていたから。
 


 それからアーレンスは、友人とあれこれ話していた。積もる話はいくらでもあるし、友人の話はためにもなる。いわば先輩のようなものだった。

 しかし、友人は途中から話がそんな"大人の話"ではなくなった。

 長々と自慢話なのか何なのかよくわからないことを話しはじめて、時には『女の子は男よりも大人になるのが早い』などともらしたりなんかする。親馬鹿か、といったそれに『親馬鹿さ』とけろりと返されて、アーレンスは苦笑するしかなかった。
 これだけ大切にされているのかと、少女を見る。

 そんな自慢話をせずとも、友人の、少女を見る目は優しげで、"父親"の顔をしていたそれたけでわかるものである。
 親ならば、なおさらだ。





『最近はああやってよく笑ってくれるようになったし、私を父と呼ぶことにも抵抗が無くなったようだが……あの子の傷は深く、一生残るだろうことを思うと、胸が痛む』





 友人―――セラヴォルグ・フィンデルは窓の外を見ていた。

 外ではクロイツと一緒に転がり、二人を引っ張り起こそうとしているファーラントがいた。『可愛い我が娘だ』というそれを、今までに何回聞いたことか。
 最初は大丈夫なのかと思ったものだが、なかなかいい父親をやっているらしい。





『アーレンス』




 クロイツと少女―――シエナに挟まれたファーラントが、"能力持ち"であるという証を見せていた。
 なにもないところから大量の花を出現させたそれに、シエナの驚く声が聞こえた。もちろん、セラヴォルグは口許を綻ばせている。










< 687 / 796 >

この作品をシェア

pagetop