とある神官の話
バルニエルでいつもの通り、アーレンスは書類を片付けていた。シエナのこともあったが、ここでの仕事をおろそかにすることはできない。いつもより進まないものの、それでも連絡を待ちながら書類を片付けていたとき、それは入った。
バルニエル近郊で幽鬼。
しかも、だ。
幽鬼はレオドーラ・エーヴァルトを拐っていったという。
思わず耳を疑った。
報告にに従い、こうして幽鬼が出たというところにやって来ているのである。
そして捜索しながら見つけたのが、この剣である。
同じ場にいた神官らは武器をちゃんと持っていた。だとするとこの剣はやはり、レオドーラのものなのだろう。
何故幽鬼がレオドーラを連れ去った?
彼といた神官らはそのままにし、去っていったというのだから神官らを襲撃しにきたというわけではないらしい。アーレンスは剣を見つめたまま、いつぞやにもあった幽鬼の事件を思い出す。
シエナがいたあのときの幽鬼は消えたはず。あれとはまた別のなのか。
シエナがバルニエルで幽鬼と対峙した後は、バルニエル近郊での幽鬼の情報は途絶えた。
しかし、アンゼルム・リシュターが姿を眩ませたあたりからまた目撃情報が入るようになっていたのである。故に見回り等も強化していた。
なのに。
アーレンスは道に佇んだまま報告を待つ。
「近くにはいない、か」
「バルニエル近郊なら自力で戻ってくるかもよ。何たってレオドーラだし……」
レオドーラの捜索が始まり、この剣が発見されてしばらく。
日が傾きはじめている。夜には魔物が活性化してしまうから、あちこち展開している者たちを引き上げさせなくてはならない。ただでさえこんなときに……。
バルニエルの結界を強めさせてはいるものの、不安は残る。
意味がわからない。
狙っていたのはシエナであるなら、何故レオドーラがこんな目にあっている?
何も事件全てがあの男らに関係するものとは思っていない。だが、わからないのだ。襲いかかるならばレオドーラと共にいた神官らもただではすまないはずだ。しかし彼らは軽傷であったし、レオドーラに他の幽鬼らも彼を追いかけたという。
クロイツの言葉に、アーレンスは確かになと思いながらも「あいつだから不安だ」と口を開く。
「上手く逃げていればいいが、レオドーラを幽鬼が拐う理由によっては、勝手に動いていないとも言い切れない」
「あー……」
「あの子の件もあるから、いてもたってもいられないようだったからな」
嫌な予感がする、とはアーレンスはいわなかった。だがクロイツには伝わったらしく「大丈夫だよ」と言わせてしまう。クロイツやファーラントと育った彼女は、妹のようなものであるし、アーレンスにとっても娘のようなものである。
そんなシエナが連れ去られたのだから、落ち着いていられるはずがない。