とある神官の話
そして、だ。
アーレンスはレオドーラを幼い頃から知っている。彼もまた深い傷を持ちながら育ったのを、知っている。だからこそ、息子のようなものだった。ちょうど、シエナがやってきたときに彼もまた幼馴染みのように育ってきたのだ。
子供。
親ならば子供は、何年たっても子供である。それは何も実のわが子じゃなくても、"子供"なのならば変わらないだろう。
――――あの馬鹿者め。
戻ったら"緑化"してやる。
周囲を探す者たちからは、この剣が見つかったということ以外、まだ何も上がってこない。足取りが消えてしまったようだ。
何故こうも次から次へと……。
アーレンスは、傾いてきた日によって空の色が変わり始めたそれを見ながら、違和感を覚えた。違和感。違和感だって?
事件なんて毎年どこかしらで起こっている。だが、「……時間稼ぎ、か?」シエナと、セラヴォルグのことを知る者たちの近くで、何かしら起きている、ともいえる。とっとと身を隠しひっそりとしていれば良いものを、何故わざわざ動き回る必要がある?
撹乱するため、か?
「父さん?」
「クロイツ、お前は一旦街に戻れ」
「でも」
「ここも直に退かせる。神官らの手配なんかをやっておけ」
クロイツは渋ったが、やがて街へと消えていく。
もし何かあれば必ず連絡はくるはずだ。ミスラやハイネンらから。
ジャナヤではないとすると、他にどこがあるだろうか。町中は難しいだろうし、この頃は村なんかでも結界が貼られていて闇堕者なんかには厳しい環境だろう。ならばやはり、人里離れた場所か。
さほど準備をせずともいい、いや、もう計画されていたならば問題はなくなる。
何もかも計算され尽くした上でのこの状況だというなら、どうやって動けばいいのか――――。
暗くなった空を見ながら、そろそろ退かせるかと思った矢先のことだ。
ロッシュ高位神官、というそれに反応すれば向こうから馬が駆けてくるのが見えた。まず、退くことを周囲に伝わせる。
そうしているうちに、馬に乗った神官が「ロッシュ高位神官!」と声をはる。
「聖都から先ほどロッシュ高位神官宛に電話がありました。折り返し連絡をと」
「相手は」
「シュトルハウゼン枢機卿です」
――――来たか。
わかった、と返事をする。そして退かせるのを神官に任せ、アーレンスは街へと急いだ。
馬を駆け、街へと入る。
連絡がきたというなら、何かしらの進展があったはずだ。
部屋に戻り、電話を手に聖都へ。相手は勿論、ヨウカハイネン・シュトルハウゼンである。
呼び出し音が数回したあと『やあアーレンス』という聞き慣れた声に多少は頭が冷えた。