とある神官の話
聞けばハイネンらはついさっき戻ったらしい。
そしてジャナヤは前の報告通り、これっいってなかったという。ある程度は予感していたとしても落胆してしまいそうになる。
なら、ジャナヤにいた神官らが気絶していたというあれは、一体何だったのか。
『時間稼ぎかと』
「……だろうな。撹乱目的とも思う。彼処はいろいろとありすぎた」
『だとしたら、まんまと踊らされていたわけですよ。私たちは』
「そうなる、な……」
電話ごしのハイネンは酷く冷静な声だった。
それがまた、嫌な予感を与える。
『――――確かめたいことがあるのです』
――――電話を切った。
一室に残されたアーレンスは、ハイネンの言葉を耳に残しながらおおきく息を吐いた。
そして己の机を見る。
机には書類なんかの他に、写真が飾られている。息子であるファーラントとクロイツ、それから聖都に行く前のシエナがいて、微笑む。
もう一枚はアーレンスとレオドーラも入った写真であり、同じくそれぞれ微笑みを浮かべていた。
セラヴォルグが亡くなった後、シエナが普通に笑ってくれるようになるまで時間がかかったこと。笑ってくれるようになったこと―――些細なことを思い出す。
彼女が成長するたびに、そのことを亡き友へ言ってやりたくなった。
彼女は、今……。
そして、レオドーラもまた姿を消してしまった。
ハイネンは詳しくは聖都に来てからだと話した。つまり、聖都に来いということだ。
そう簡単に、という間もなくハイネンは「転移術の使用許可をむしりとりましたから」と続けた。移動時間も惜しいらしいそれだけの何かがあったのか。
ならは、行くしかない。
行って、ハイネンのいうそれを聞いてこようではないか。
聖都だからといって油断は出来ない。現にあのリシュターから、ゼノン・エルドレイスが術を喰らったのだ。
部屋を出て、同じ高位神官に事情を説明し、不在の間を任せる。
次に、といったときのことだ。
「父さん?」
己に似ていると言われるファーラントがいて、「ちょうどよかった」という。クロイツの姿はないが、ファーラントに伝えてもらえばいい。
ハイネンからの連絡があったことを話し、それからアーレンスは聖都に向かうことを言えば、ファーラントはうなずく。
「ここは俺たちに任せてくれ。クロイツには俺から伝えておく」
「ああ。悪いが、頼むぞ」
「気を付けて」
「お前らもな。油断するなよ」
ファーラントはわかってるさ、と苦笑を浮かべながらアーレンスを見送る。
今バルニエルを離れるのは、どうなのかわからない。だが、今聖都に向かう必要があるからには彼らに任せるしかない。
アーレンスは、朝早くに聖都に向かうために先に準備をすべく自宅へと向かった。
胸に、嫌な予感を抱えたまま。