とある神官の話
いや、それも大変な情報ではあるが、ゼノンが気になるのはその後のものだ。ゼノンの問いに、リシュターは奇妙な答えを返している。
意味がわからない。
意味深すぎる。
"本当のこと"かどうかわからないというのに、ひっかかる。
アンゼルム・リシュターの出生は記録にもちゃんと残っていて、彼は"アンゼルム・リシュター"であるのに、"私にもわからない"とは?
わからないことばかりだ、と宮殿に続く門を通る。「ロッシュ高位神官は来てるのかな」欠伸をしながらランジットがいうそれに、「しゃきっとしろ」とどつく。
これからまた真面目な話をするのだ。目を覚まさせてやろうかといえば「力ぶっぱなしたいだけだろうが」と逃げられた。
多少冗談を言い合えるだけの余裕を持たなくては精神的に参ってしまう。
ゼノンらがジャナヤへと行っている間、キース・ブランシェは聖都に残っていた。キースが聖都に残ったのはシエナやセラヴォルグ、ヤヒアなどに関する資料を集め、目を通すためだった。
そんなこと、と思うかもしれないが、何か手がかりが見つかるかもしれないのならばやるだろう。それをキースはやっていたのだ。
資料には現地の写真も残っている。
当時のもの、ということでそれらの資料から何か見えないかと、能力持ちのエドガー・ジャンネスに"見て"もらったのだという。
ジャンネスの能力は、残されたものやその人から見た光景を"見る"ことだ。
持ち主の居場所などもわかるというものだが、その能力は不安定なものである。しかし今回はそれが"見えた"。そのまとめをキースが持っている。
当時のものから、その当時の光景が見えるのはおかしくない。ジャンネスは能力にむらがあるとはいえ、そういう能力持ちであるからだ。
しかし、ジャンネスが見えたというものの中に記録にはないものがあったのである。
記録にはなくて、見えた。それは"何か"がある証である。
シエナに関することなどは、アーレンス・ロッシュが一番知っている。なので彼に聞く必要があったのだ。
宮殿に足を踏み入れ、目的地へ。
一室に到着するとすでにキースとハイネンの姿がありそして、バルニエルから呼ばれたアーレンス・ロッシュの姿もあった。
挨拶を交わしている最中、後ろからエリオン・バーソロミューが姿を見せた。
一同が揃い、それぞれ席につく。
「また問題がありましてね」
「問題……?」
聞き返したそれに、ハイネンが頷く。
「レオドーラ・エーヴァルトが幽鬼にさらわれたまま行方知れずとなっているのです」
「レオドーラって…ヴァン・フルーレに来てた女顔の…?」
「レオドーラ含め三名がバルニエル周辺に見回っている神官らと交代したあと、幽鬼が姿を見せてレオドーラを連れていったそうだ。二名には怪我がなく、幽鬼が去った方向にはレオドーラのものと思われる剣が落ちていたのだ。捜索しているがまだ見つからない」