とある神官の話
「まあ、たまたま思い出しただけですから。気にしないで下さい」
エリオンがそういうと、それぞれ頷く。しかし「なんだかあれだな、幽鬼みたいだな」などとランジットがもらしたそれに、確かになと思う。
関係がなかったなら、それはそれでいい。関係があったとしても過去のことだから、どうしようもない。
アーレンスはそのまま「どうするつもりだ?」とハイネンへ問いかける。
考えられること、情報。
関連するもの。何でもいい。手繰り寄せるべきだ。
ゼノンは考える。ジャナヤの件をふと思いだし―――――顔をあげた。
ジャナヤは彼女と関わりがあるから、調べた。だとすると……。
「―――今、その場所はどうなっているんですか?」
* * *
――――俺、何やってるんだろう。
ふと、レオドーラは自分が置かれている状況がわからなくなりそうになった。そうなるほど、本来の目的とかけ離れたことをしているとしか思えない。
何をしているかといったら、だ。
顔をあげると畑が広がっている。そして手には雑草。引っこ抜いたそれは視線をずらすと山になっていた。
そして身に付けているのは、他人の服。神官の服は今ごろ洗われて風に揺れているだろう。
何故こうなったのか。
マノに幽鬼から見えたものを話した後、このままだと野宿かと考えていた。最低限のことは出来るが、というレオドーラの横で「道に出よう」とマノは無造作としか思えない方向へ歩いていく。もちろん森を、だ。
レオドーラ自身、バルニエルの近くならばまだしも、今いる場所は全く何処にあたるのかわからない。森の中でやたらむやみに歩いたら間違いなく遭難する。おまけにくたばるだろう。
そんな状況だというのに、マノは適当に歩いていく。少なくともレオドーラにはそう見える歩き方で進むので、従うしかなかった。
するとどうだろう。
しばらく歩くと本当に道に出た。うっかり「まじかよ」ともらし、何でと問うたそれに「勘だ」という答えが返ってくるのだからもう閉口するしかない。
方向音痴の逆ってあったっけ、などと思った。
人が通れば何とかしてもらい、残念なら野宿。
お金なんてレオドーラはほとんど持っていない。しかも服はあちこち汚れている有り様だ。男二人にこの有り様。怯えられる可能性もある。
だが――――。
夕暮れ、もう夜が近くなったという時間に荷馬車が通った。
もう、運がいいとしかいえない。
しかも荷馬車の老人はレオドーラの神官服に、丁寧に話を聞いてくれた。神官といったら今では普通にいて有り難がれる、だなんていうのはあまりない。とはいえ地方、小さな村では扱いが丁寧であるのはよくある。
理由を適当に述べて、村まで連れていってもらい、しかも泊めて貰ったのである。
村は小さいもので、神官が珍しいのかレオドーラはさっきから子供たちからの視線を浴びている。
こんなとき、能力持ちであったならなと思う。炎を操れるとか、そういうのがあればみせてやれるが、生憎レオドーラは能力持ちではない。
バルニエルの神官らはレオドーラのことを探しているだろう。この村だって離れてはいるだろうが、手は及んでいないらしい。
そして――――泊めてもらい、しかも汚れて酷い神官服を洗濯しても貰い、洋服を借りているレオドーラは現在雑草を引っこ抜いていたわけである。いわば、お礼、ということになる。