とある神官の話
マノは何も言わない。
美形というのはまあ、いないことはない。ヴァンパイアがそのいい代表であるし、ユキトも整った顔立ちの者をは多い。
だが、マノは違う。
なんといったらいいのかわからない。違う。そう思うのだ。だから、勘という言葉が一番近い気がする。
聞こう、と思った。けれど口から出たのは「これからどうするんだよ」という、聞きたいこととは別のものだった。
もちろん、これからのことも聞かなくてはならないことだったので問題はない。
気付いた、または気づき始めたということをマノが、気付いているのかわからない。
レオドーラが"勘"で思い浮かべている答えが本当に当たっているなら、マノはレオドーラには勝てないはずだ。勝てないと気付いた。マノもレオドーラも本気を出せば、レオドーラは無事ではすまないかもしれないが、こちらのほうが優位なのには違いない。
答えが当たっているとして、戦いあう必要は今はない。少なくとも、今は。
それにレオドーラこ中には、どうにかしてしまったら不味いのではないかという気持ちがあった。
だから―――言わなかった。
「ジャナヤは時間稼ぎで何もない、といったのを覚えているか」
「ああ。本命じゃないとか言ってたよな」
「そうだ。ジャナヤの悲劇を知っているだろう?あの場は昔、神官らによって清められた。一度清められた地は堕ちた者には近寄りたがらない。彼らは清浄たるものを嫌うからな」
「もしシエナをどうこうするっつーなら、そんな場所は居心地悪い、か」
「何をするにしても出来ないことはないが、不愉快であろうし面倒だ。それに」
少しマノの言葉が途切れたが「あそこには、ハイネンらが術をかけたしな。余計嫌だろう」と続けた。それはレオドーラも頷く。それと同時にジャナヤはヴァンパイアの三名が動いていたことを思い出した。彼らのことだから、詰めが甘いということはないだろう。
そしてそんな彼らが清めた地に隠れるだなんてよっぽどだし、自殺行為ではないか。
二人はともかく、ヨウカハイネン・シュトルハウゼンという男は奇人変人だか、実力はあるしやるときはやる。敵にはしたくない相手だ。
「そして、もう一つ。シエナに封じられているものは奴らには取り出せない。術もそうだし、本人の意思も複雑に絡んでいる。なら、奴らはどうするか――――例えば精神を破壊して人形のようにしてしまえば、抵抗出来ないし、操り易くなる。術をどうにかする方法を見つけるまででも楽になるだろう」
そういえば。
レオドーラはアーレンスから聞いたことを思い出す。
それはあの恋敵、もといゼノン・エルドレイスが目覚めた時のことだ。シエナに成り代わっていたヤヒアがゼノンに言った言葉――――。
"どんな風に泣くかな"
入れ替わった人形としての、ヤヒアの言葉。なにもないだなんてあり得ない。何かするからこそ、ああいってゼノンを激怒させたのだ。
――――悪魔め。
いつか絶対捕まえるか、倒してやる。
ヤヒアのような残虐な奴は、捕まえても捕まえてもあとから出てくる。きりがないといえるが、それでも悲劇を少なく出来るだろう。
思うがまま操れる、というのもかなり厄介なことである。が、レオドーラは他にもあるそれを「中身が入れ替わりでもしたら」た
口に出した。
それは、そう。ハインツという人物が、実はウェンドロウであったように。
そしたら―――――。
「おわっ」
少々意識が自分の内面に向いていたからか、いきなりのそれに焦る。
何をされたかというと、だ。
頭をぐりぐりと強引に撫でられたのである。
ぐりぐりと、であるからもう撫でるという感じはしない。むしろ罰ゲームのように思える。