とある神官の話
「何しやがる!」
油断していた、とマノのそれから逃れる。
「そう一人で考えすぎるな。ハゲるぞ」
「ハゲてたまるか!」
「男で髪がさらさらな奴はハゲやすいとか聞いたことがあったが、どうなのだろうな?」
「……俺に聞くな」
ああ、何なんだ。レオドーラは脱力した。
そういえばシエナにもいじられることがあったな、などと思いだす。冷静にならなくてはと深呼吸をした。
マノのよくわからない調子に狂うが、今回のはわざとだ。
気をつかわれたらしいそれを苦く思いながらも「大丈夫さ」という声を聞いた。
その言葉は単に気休めではない。
何か、強さを感じた。例えば、何か打つ手があるとか、そういうのだ。
しかしレオドーラは大丈夫、だなんて信じてはいるが、実際は半分半分である。
うっかりマノへと視線を注いでいたそのまま、マノの言葉を聞いた。
「人の思いというのは強く残る。思い出もそうで、それらを破壊するのは大変なものだ。だから、揺さぶりを何度もかけて弱らせる。その人の傷を抉るようなことを見せたりするのだが――――あの子の最大の傷といったら何だ」
「そりゃ、あれだろ……自分の家族が死んだとかだろ。今は普通に話すけど、昔は全然喋らねぇこともあったし」
知っている。
バルニエルで同い年くらいの子供に親がいないと言われたとき、シエナはただ突っ立ってその言葉を受けて、涙を流したことを。
レオドーラにも親がいないから、その気持ちは痛いほどわかった。
親がいないのが悪いことなのかよ、と。
しかし、どうしてやればいいのかなんて当時のレオドーラにはわからない。だが、腹がたって、その子供らと喧嘩をしたのだった。
もちろんそのあと"レオドーラが喧嘩をした"ことでこっぴどく怒られた。だが、その時シエナが"事情"をぽつりぽつりと話したおかげで、後日――――またからかいにきた連中が花だらけになったのは記憶に残っている。
ちなみに花だらけにしたのは、アーレンス・ロッシュの息子であるファーラントである。
それを見て俺も強かったら、と思った。
強かったなら、痣だらけにならずにやり返せて、守ってやれるのに、と。
レオドーラの答えに、マノはそうだとうなずいて見せる。なんだかわざと聞いてきたみたいだなと思う。
マノはたぶん、レオドーラが"違う"とわかったらついてくることを許しはしなかっただろう。マノが何者であれ、シエナを大切に思っているそれは嘘ではないとレオドーラは思う。
つまり、及第点は貰ってるのだ。
わかってるっつーの。