とある神官の話
エリオンが言いたいこともわかっているし、ランジットが何となく危惧することもわかっている。だが、信じるしかないのだ。
自分は高位神官で、回りからはエリート等と言われても、ただの、一人の男である。
大切な人を、守りたい。
敵ならそれは倒せばいい。問題が起きたならそれを解決する術を探せばいい。だが、惚れた腫れたはそうもいかない。自分がまさかこんなに振り回されるとは考えていなかった。自分が自分でないかのようになるとは、考えられなかった。もちろん今は、違う。
信じるしかないといった私に、二人はまだ黙っている。
「私だって色々と考えていますよ。ですがその前に、私は信じたい―――あのシエナさんが負けるはずがないと。私にストーカー予備軍といったり冗談は顔だけにしろといったりするのは、シエナさんくらいですし」
「……先輩ってエムでしたっけ」
のろけに近いそれに、エリオンが若干引き気味であるのを無視し、私は思い出していた。
笑った顔や、怒った顔、照れた顔……。
能力持ちの、普通の女性神官。
けれど自分にとっては特別な人だった。
「なんつーか、この状況でノロケかよ」
「あーもーわかりました。降参ですすみませんごめんなさいもうもーにでもなれ」
ランジットが笑い、エリオンが全て悟ったような顔をし、かつ、やけくそらしい言葉を発した。
どうしようとしたって、なるようにしかならない。しかし助けるというそれは変わることはない。
シエナが消えてからというものの、いろんな問題で緊張感ばかりだ。緊張感は良いものでもあるが、続きすぎるのはよくない。少し戻った和やかな空気も大切だ。
気休めでしかないだろうが、それでも。
「いつからこんな変態になったんだ」
「初めからなんじゃないですか。むっつりすけべ、みたいな」
「いや、昔からじゃないと思うが……あれか、天才となんたらは紙一重とか」
「成る程。それに輪をかけて恋する男ですからね。恋はいろんなものを変えるようで」
「確かにな。一歩間違えれば犯罪だろうし」
「色々とずれてるんですよ、先輩は」
エリオンとランジットが好き勝手にいい始めているので、一発締めてやろうかと思った矢先のことだった。
部屋の電話が鳴った。
二人に締めるのはいつでも出来るので、電話に手が伸びた。『ゼノン・エルドレイス高位神官はいらっしゃいますか』というそれに「私ですが」と答える。
ゼノンへ電話がきているということで、その相手の名前を聞けば『それが困ったことに名乗らず、エルドレイス高位神官を出してくれと』と。
名乗らず、か。
何かの密告か何かか?だとしても名指しとは少し妙だ。
よく聖都内や近郊に出ることの多いヘーニル・ロマノフ局長へなどならまだ、一般人にも名前が知られているだろうからわかる。例えば、孤児院のブエナであっても名前くらい名乗るだろう。
身には覚えがない。
「こちらに回してもらえますか」
『わかりました――――』
電話先の神官の返事のあと、すぐに切り返して「もしもし」と名乗らずにいる人物へかける。
近くではあれこれ言い合うのが終わったのか「どうした?」という顔を二人がしている。それもそうだろう。「ゼノン・エルドレイスです。失礼ですが、どちら様でしょうか」などといっているのだから気になるはずだ。
そう訪ねると、何やら騒がしくなった。『ちょ、おい待てよ!』という声がしたかと思うと『君がゼノン・エルドレイス高位神官か?』と相手が変わった。後ろではまだ誰かが何かいっていたが、やがてそれが止む。少し黙っていてくれ、というような言葉が聞こえた。
今の声、どこかで……。
聞き覚えがあったとしても、電話越しではやや不安だ。覚えがある人とは限らない。
一体、誰だ。
様子がおかしいことに気づき、ランジットが体を近づけ、盗み聞きしようとしてくる。煩わしいが、放っておく。エリオンはメモの準備をしていた。
"こんな状況"で、不審な電話なんて。思わず力が入る。
『エルドレイス高位神官で、あっているのか?』
「……ええ。貴方が…いえ、貴方が電話をかわられる前の方が私を名指ししたようですが」
『そうだ。私にはわからないからな――――』
わからないから、と?
声は男だ。しかし誰かわからない。
『ジャナヤには何もなかっただろう』