とある神官の話
―――何故。
盗み聞きしていたランジットと目が合う。何故ジャナヤのことを知っている?
聞き返したいが堪える。「何のことですか」ととぼけて見せたそれに、『レオドーラ・エーヴァルトから聞いた』と返ってきたものだから、息をのむ。レオドーラ・エーヴァルトだと?
レオドーラは行方不明だとされている。アーレンス・ロッシュらが行方を探しているはずのレオドーラから聞いたというのは、どういうことなのか。
『心配せずとも、声が聞こえていただろう。彼は無事だから安心していい』
「どこに本人だという証拠があるんです」
『電話だから無いな。ただ、こちらは嘘をついて良いことはない』
「……それで、一体何をどうしてこうなっているのか是非聞きたいのですが」
向こうは余裕すらある。レオドーラ・エーヴァルトは無事だといっていたが、先ほどの声はレオドーラだったのか。だから聞き覚えがあったらしいものの、本当に本人だとは言い切れない。
得体の知れない何かを目の前にしているようだ。
『―――私たちはシエナ・フィンデルを奪還するつもりだ』
「待ちなさい。どういうことです!」
相手が予想外の言葉を発したそれに、堪えることは出来なかった。意味がわからない。いや、奪還するだと?
こちらがそのために情報を集めたり、または探ったりしていても中々進まないというのに。
冷静さが欠けた自分に、エリオンが落ち着いてと唇を動かす。ランジットもまた電話にと目で訴える。しかももどかしいのは『落ち着け』と電話の主に言われてしまうことである。
誰のせいでこうなっている。
『君は本当にあの子を助けるつもりなのか』
「当たり前です―――何がおかしいんですか」
『いや、すまない―――レオドーラの言った通りだと思ってね』
電話越しの低い笑い声がささくれだつ心に刺さる。
『私はレオドーラに、事情を知っていて、聖都にいる最も信頼できる者に連絡をとってくれと言ったが……。君にした質問あるだろう?あらかじめレオドーラに連絡をとる相手に聞いたらどうなると聞いてみたが、当たり前だと返ってきた』
"あの"レオドーラが自分を信頼できる者という認識であるというのは、まあ、なんとも言えない。恋敵であっても、シエナ絡みならば信頼出来るのは間違いない。
しかし、何故私だったのか。
ハイネンでもよかったのではないのか。
"事情を知る、最も信頼できる者"。
『しかし、恋敵だろう?まさかそんな相手に連絡をとるとは思ってなかった』
「……同じ、ですから」
『そうか。ふふ、あの子は想われているのか』
男の声はとても優しいものだった。敵ではないのかまだ判断がつかないが、敵ならばわざわざ連絡をとるだろうか。
奇妙なやり取りだと思った時、部屋にノック音がした。部屋に入り込んできたのは「おや。どうしました?ラブコールですか」というハイネンと、疲れた顔のキースが戻ってきたのだ。受話器を持ったままそちらを見ながら、さてどうするかと考える。
様子がおかしいことにハイネンはエリオンのとったメモを見て続けてこちらを見た。
『今のは…ハイネンか?』
電話でそう言われて、迷った。しかしそれはわずかな時間で、横から受話器を奪ったのはハイネンで。いきなり何を、だなんて彼には通じない。
しかもだ。
「はーい、ヨウカハイネン・シュトルハウゼンですけどー」
何のキャラだよ!
思わずその場にいた全員がそう突っ込み、実際に声を出したのはランジットだった。ちなみにキースは顔を覆っていた。奇人変人代表であるハイネンが奇妙なことをするのは見慣れたものである。
とにかく、何やらかしてるんだこの奇人変人ミイラ男。
青筋をわずかに浮かびそうになるのをおさえたのはランジットだ。
もめても意味がない。溜め息と同時に諦めた。奇人変人なのは今に始まったことではない。
「待ちなさい!」
鋭い声が響いた。
さっきまでの奇人変人全開だったハイネンの様子が変わった。鋭い声に部屋にいる皆が何事かとハイネンへ視線を向けた。「何故」と呟くようにいいながら、無言が続く。
ランジットが恐る恐る近づこうとしたが「あなたは――――」と慌てたような声を出した。が、それから会話が続くことはなかった。がしゃん、と受話器が下ろされる。
「……ゼノン、彼は何処の誰だかいっていましたか?」
「いや……ただ、レオドーラ・エーヴァルトに聖都で事情を知り、最も信頼できる者に連絡をとってもらったと」
電話の内容を説明しながら、ハイネンのあの慌てたような声を思いだしていた。慌てた、というのは奪還云々のことだろうか?
私の説明に頷きながら「まずはフォルネウスとのことから話しましょう」というそれにそれぞれが耳を傾ける。