とある神官の話
シエナの最大の傷といったら、やはりセラヴォルグ・フィンデルが死んだことであろう。
自分を助けるためにやってきて、その結果死んだのだから、死を悲しむのと同時に自分を責めたはずだ。アーレンス・ロッシュのもとに来たばかりの頃のシエナは、あまり笑わなかったのを覚えている。
レオドーラが考えても酷く痛む。
マノは頷き、「シエナの心を壊すのにいい地だろう」と静かにいった。
確かに、セラヴォルグが死んだ地というそれはもう足を踏みいれたくないはずだ。
だか、そこに必ずいるとは言いきれないだろう。なのにマノときたら……。レオドーラに電話をかけさせたのだ。
その地に来てもらうために。
レオドーラは電話をかける際、少し迷った。信頼できる者。聖都にいるとなるとハイネンか、あるいはあいつか。ハイネンは奇人変人であるが間違いなく優秀だ。
だが。
"この件"でレオドーラ同様、今ごろ必死になっているであろう男が浮かんだ。
ゼノン・エルドレイス。
あの歳で高位神官で、エリート街道まっしぐら。しかも女にモテる(決して僻んではいない…はずだ)し、頭もよく、能力持ちだ。
それだけじゃない。
レオドーラにとってゼノン・エルドレイスは恋敵である。
だが、レオドーラはハイネンではなくゼノンを選んだ。
何故。
それはやはりシエナのことだから、なのだろう。恋敵だからこそ、わかるから。
まあ、電話をかけてすぐにマノに受話器をかっさらわれたのだが。
しばらくはゼノンと話していたが、そのあとに相手が変わった。ハイネン、とマノが名前をいっていたから、ハイネンなのだろう。
マノはシエナの傷のことを話し、セラヴォルグが死んだあの地のことを話した。もちろん、その地にいるとは限らないがと断りをいれて。
そして三日後に襲撃をかけるから、来るならば最初は最小限が良いだろうなどとまでいっていた。
レオドーラのことを話しているとはいえ、マノは名乗っていない。ハイネンらは信じるだろうか。レオドーラだっていまいち実感がわかないし、不安でもある。だが不安だからといって動けないのは苦しい。
電話をしているのを見ていたのだが、「あいつも来るだろう」という呟言葉が聞こえた。
あいつ?
疑問をよそにマノは「似てないでかい息子が来ないわけにもいかないだろう」と、更に訳のわからない言葉を発していた。
あいつといい、似てない息子といい、一体何なんだよ。
何処から聞けばいいのか。
「で、どうなんだよ。信じたのか?」
「どうだろうな。だが、動くはずだ」
「なんじゃそりゃ。でもまー、来そうなんだろ」
雰囲気的に、そんな感じだった。マノいわく「向こうも考えていたのかもしれないな」と。
それならその地にシエナがいる可能性が大きいのではないか。
向こうも向こうでそう考えるだけの理由があったはずだから。
マノのよくわからない言葉はこの際置いておこう。むしろマノは様々なところに突っ込みが存在していて、きりがないのだ。洋服といい、話す言葉といい、土地勘とか―――何なのやら。
とにかく、だ。
味方は多い方がいい。
敵はそんな、はいそうですかとシエナを逃がしてはくれないだろう。罠だって考えられる。味方、それも信頼できる味方は必要だ。
そうなるとマノはどうなるのかと思うが、レオドーラは今のところ味方であるとは思っている。だが、ゼノンやハイネンらよりは信用していない。正体もわからず、名前だってうさんくさい。完全には信じれれないのは仕方ない。マノだって下手なことは出来ないだろう。
まあそれは何もマノだけではなく、レオドーラにも言えるが。
「なんだよ?何笑ってやがる」
気がつくとマノは低く笑っているのに気づいた。
「ゼノン・エルドレイス高位神官が何といっていたを思い出してね。何といっていたと思う」
「さあな」
「"同じだから"だそうだ。なるほど、恋敵という共通点からの、ということか」
「…あのストーカー予備軍野郎め」
「予備軍?」
「そう言われてんだよ、シエナに」
ストーカー予備軍、だなんて。
言葉通りだと犯罪の一歩手前っぽい。
レオドーラはどういうことがあって、ゼノンがシエナに惚れたのかよく知らない。だが、猛烈にアピール(様々な所に出没したり)することから、シエナからストーカー予備軍などといわれたのが始まりだというのは知っている。
そうやけくそに説明すれば、何故か嬉々として「やるな、青年」といい、「どんな人物なんだ」と興味が出たらしく聞いてきた。
「どうって…俺だって別に親しいわけじゃないんだぜ。初めて会ったのだってつい最近みたいなもんだし」
「だというのに、連絡をとったのか」
「うるせぇよ」
またマノが控えめに笑った。