とある神官の話
三日後に迫った襲撃というそれが、何だか後悔を生むような気がした。襲撃と同時に、タイムリミットのような……。
一緒にいる間、レオドーラは考えていた。様々なことを考えていた中、わざとなのかマノは特に何か言おうとはしない。アーレンス・ロッシュやハイネンのことを知っているなら、例えば、元気とか、最近のことを聞いたりとかしてもおかしくないはずなのに。
考えていたそれが答えを見つけても、レオドーラはあえて避けた。
言いたくないなら、それでいい。だか、本当にそれでいいのか?
―――――否。
「なあ、マノ」
窓のほうを見ていたマノがこちらを向く。どうした、と。
答えが出るとは思わないし、当たっているかもわからない。だが。
「お前の召喚主は誰なんだ」
青年といっていい見た目で、アーレンス・ロッシュとその息子のことやハイネンのことを知っている。
レオドーラを息子であるファーラントかと聞いてきたということは、小さい頃のファーラントしか知らないということではないか。
その当時二十代だとしても今、青年の姿をしているのは普通の人間ならば少々合わなくなる。ならば、ユキトか、ヴァンパイアか。
しかし、違うのだ。
レオドーラは自分が行き当たったそれが当たっていたなら、行動を考えなくてはならないと思っていた。
レオドーラの問いに、マノは数秒黙ってこちらを見ていた。だが「いつ聞いてくるかと思っていたが」と目をふせる。
聞かれることは覚悟していたらしい。つまりそれは―――。
緊張している。らしくない。無意識に握りしめた手を解しながら、落ち着け、と念じる。
「お前は、喚び出されて器へと移された者、なんだろ」
―――死者の魂を呼ぶ"魂呼び"。
たた死者の魂を呼ぶだけなら、神官がやることがある。しかし闇術、つまり禁術になるとあらかじめ用意した新鮮な死体などに魂を定着させ現世に甦らせるというものがある。
器は死体だけではなく、人形の場合もある。どちらにせよ長持ちはしない。
マノはその中でも、人形の方ではないかとレオドーラは思っていた。
人形は、もちろんヒトに似せられるが、ヒトの手で作られることから整った打つ串あ顔が多いという。
それもそうだ。わざわざ作るなら美しいほいがいいだろう。
それから、レオドーラは見ていた。マノの腕に"ひび割れ"があったことを。
一瞬であったが、答えにたどり着く理由にはなった。
「――――レオドーラは優しいな」
「い、いきなりなんだよ」
「何となくでもわかっていたから、魔物や
幽鬼が出たときに気を使ってくれていたのだろう?」
「……別に俺は」
「照れなくてもいいじゃないか」
「照れてねぇよ!」
ああ、くそ。
髪の毛をかきむしりたくなる衝動にかられるが、我慢する。溜め息が出た。
そんなレオドーラへ、優しげな視線が向けられた。
「レオドーラの言う通りだ。私は召喚されてここにいる。体は…人形だが、器用なのかそれなりに強度があり、ぱっと見わからないだろう?だが――――所詮人形だ。あまり時間がない」
あまり時間がない。
つまりそれは……。
マノはそのまま「既にひび割れがあるからな」と何でもないかのように言うが、レオドーラは唇を噛む。
彼は一度死んでいる。
死者はここにいてはいけない。死者だからだ。今レオドーラたちがいる生者の世界は彼らが本来いるべき場所ではないのだ。
「だから、器がどうにかなってしまう前に何とか助けなくては」
マノの言葉があれこれと考えてしまうレオドーラには痛い。
生前の知り合いがまだ生きているなら、レオドーラだったら様子を見たいとか、会いたいとか思う。元気でいるだろうかと。
しかしそこで考えてしまうのだ。
その人形が、死者で知り合いであったというのを相手が知ったら、どうなる。
―――その先を考えて、やめた。
だからマノはバルニエルの近くにいても
アーレンスのもとには行かなかったのかもしれない。
「そんな顔をするな。私は死者なのだよ」
「そうだが…」
「私のことを知ったのだから、力は貸してくれよ?」
レオドーラはそれに「当たり前だっつーの」と返すはしかなかった。
目の前にいる、この世に喚び出された死者に。
* * *