とある神官の話
アゼルが注意深く観察していると、アガレスは衣服をまさぐりケースを出す。そしてケースから赤色の錠剤を何粒か手にとり、そのまま口の中へ放り込み嚥下する。
赤色の錠剤といったら、血を固めたものだろう。昔は輸血パックを持ち歩いていたともいうが、とアゼルは思い出す。今は殆ど錠剤になっている。
アガレスは体を起こすと、まだ怠いのか息をはき、「リシュターのことの前に話しておくべきだろう」と話した。
血に染まったままの服を、"魔術師"の力であっという間に綺麗に戻す。続けて「わお。すげえな」アゼルやラッセルのも綺麗にして、また一息。
ヴァン・フルーレでのリシュターとの会話に、血を吐いた姿が甦り、嫌な予感がした。
何を話すつもりなのかわからないが、自分の倍以上生きているヴァンパイアだ。言葉に耳を傾ける。
「私はもうすぐ死ぬ」
それは二人の言葉を奪うだけの力があった。
死ぬだと?死ぬ。
アゼルは一瞬何をいってるんだと思った。"あの"アガレス・リッヒィンデルが死ぬ?
どういうことだよ、というラッセルの声を聞きながら、アガレスは首から胸にかけての部分をはだけさせた。
白い肌に、違和感。
黒いなにかがある。刺青のようにも見えるが、違う。脈打つように動いていて邪悪な感じが背筋に駆け抜けていく。
心臓のあるあたりを中心とし、そこから広がるように伸びていた。それだけじゃない。アゼルをぞっとさせたのは、その黒の先端部が人の手のようなものになっていたのた。
「枢機卿や神官らを殺したあの日、リシュターから喰らった。命を削り発動させることで、ゆっくりではあるが相手を死にいたらしめる……古い禁術だ」
「解除法は」
「さあな―――恐ろしいものだ。王国時代にはこのようなものが出回っていたというのだから」
「冷静に言っている場合か!」
あまりに淡々としているので思わず声を荒げた。
死は誰だって恐ろしい。しかしアガレスを見ていると全て悟っているような、リシュターを倒すためなら何でも受け入れる気でいる様子だ。
服を戻しながら「私は犯罪者だぞ?」と声を荒げたアゼルへ静かに告げる。「多くを殺した犯罪者だ」と。その言葉はアゼルを冷静にさせた。
「生きたいなどと思わない。私はとうに死んだようなものだ。だが、死ぬならあの化け物を殺してからだ。その後ならどうなってもいい―――それまでは少し手を貸してくれ」
「ああ。で、何すりゃいいんだ?」
間を開けず返答したのはラッセルだった。あまりにあっさりとしていたのでアガレスはわずかにたじろいた。
ラッセルがあっさり返答したそれは、アゼルもまた同じようなことを思っていたのと同じだった。
「お前のことはあのくそ野郎を倒してすっきりしてから、いくらでも考えられる。だから今は…同じ目的なんだろう?問題はない」
続けてアゼルがそういったそれに、アガレスはうなずいて見せた。
そして、次にやることのために口を開く――――。