とある神官の話
建物の外に出ると、子供たちにもみくちゃにされているランジットと合流する。
「悪い。俺ら帰らなくちゃならねぇんだ。またな」
「またっていつ!?」
「用事が全部終わったらな」
「約束だぜ!」
「おうよ。約束だ」
頭を撫でてやりながら別れて、ランジットは乱れた黒髪や衣服を直す。どうやったら衣服までがはだけるんだ、などと思う横で「あいつらは元気爆発だな」という言葉を聞いた。
振りかえって手をふっているランジットの赤色の瞳は、何かを思い出すように細められた。
「俺たちにもあんな時代があったんだな。お前もさ、昔はまだこんなんじゃなかったし」
「こんなんで悪かったな」
ゼノンは自分の過去を、良いものだとは思っていない。養父フォルネウスに拾われる前は酷いものだったから、養父のもとで過ごす日々が実に幸せであったし、今もそうだ。あれこれ喧嘩のようなものをしても、それすら何だか幸せの証のように思う。
このランジットだって、珍しい赤色の瞳からか、少々気味悪がられていたし、今も多少はある。
―――誰だって何かしらの傷を持っているのだ。
広場から門をくぐり、宮殿へ。
今ごろキースやハイネンらがあれこれ話し合いをしているだろう。
宮殿の奥へ向かうとき、気づいた。
華美ではなくシンプルではあるが、何もないというわけではない。細やかな刺繍が施された衣。それとその人物を守るように武装神官とお付きの者を従わせて歩くのは―――。
ランジットとともに廊下の壁がわに寄り、頭を下げる。
教皇エドゥアール二世がそこにいれば、養父であっても関係ない。仕事は仕事である。
通りすぎるのを待つつもりだったが、「ゼノン」とはっきり呼ばれたことに、ゼノンは顔をあげる。
宮殿内の、まだ教皇しかいない部屋などではまだしも、こんな人が多い場所で名前で呼ぶのは珍しい。しかも顔をあげろといわれ、渋々ながら従えば「!?」乱暴に頭を撫でられた。
一体なんのつもりなのか。
「猊下」
「しっかりやって、無事に戻ってこい。ランジットもだぞ」
「!あ、はい」
「……承知いたしました」
ランジットはまさか自分にまでくるとは思ってあなかったらしく、慌てるように返事をした。ゼノンはただただうなずき、"猊下"を見送った。
髪の毛は見事に乱れていた。これではまた束ね直さなくてはならないではないかと文句を抱きながら、束ね直す。
心配してくれているのだ。
お前のことだから大丈夫だと思うが、と。昔っからそうなのだ。
ゼノンのやりたいことを、今まで尊重してきた養父。危険だから行くなだなんていわない。まあ、いわれてもゼノンは行くだろうし、養父もまたわかっているからなにも言わない。ただ、無事に帰ってこいとだけ。
中々言えないが、感謝している。
こわばった顔がわずかに緩む気がした。それはランジットも同じらしく、何やらにやついていたが、照れ臭さを隠すようにゼノンはまた歩き始める。
目的地につけば、一段落なんなのか、キースもハイネンも菓子をつまんでいた。
どうしたんだよそれ、とランジットが聞けば「くすねてきました」と。平然と答えるので、ランジットはとやかく聞かず菓子を口に放り込む。
……どこからくすねてきたのやら。
「どうなりましたか」
「それがですね、面倒だなってなりました」
「……はい?」
何いってんだこのミイラ男は。
この状況で冗談―――とも思ったが、冗談の一つ二つくらい言えないと、精神的に追い詰められてしまう。
が。
ハイネンの様子からだと、冗談に見せかけたマジ、らしい。アイスティーをよばれながらソファーへ腰かける。そういえば部屋にはエリオンがいない。奴はどうしたのか。