とある神官の話
――――???年。
まず、知らなくてはならなかった。多くの事を。
自分は小さな小さな場所で、恵まれない環境で育ってしまった分を取り戻さなくてはならない。
だから、知る必要があった。
知らないということを知っていたから。
あの捨てられたような場所で、自分は何て無力なのだろうといつも思っていた。掃き溜めのような場所。いつまで待てば抜け出せるのかわからない日々。自分は一体なにをしているのだろう。わかるのに、わからないもの。
もし、自分がこんなんじゃなかったらどうだっただろう?
お金持ちで、なに不自由ない生活ができて、まあまあなあたたかい家族の存在があって。そんなの一握りの存在だ。早い段階で無理だと悟った。夢見るのは自由だが、段々と現実と違いすぎて夢ではなくなる。
だが、それでも。
それでも、人間よりも強いヴァンパイアだったなら、あんな風に罵られ、暴力をうけ、無力と自分の半端さを呪うことはなかっただろう。
―――あのとき、信じていた。
自分はまだマシである。一人じゃない。まだ生きている。食べている。家がある。母に愛されている。必要とされている。そう、信じていた。それはまるで、救いを求めて信仰するかのように、信じていた。
本当に。
愚かにも。
人の皮を被った悪魔など、いくらでもこの世のなかで見つけることが出来る。
そして、地獄の光景もまた、現実で見ることが出来るだろう。
元はヒトであっただろう何かが、人形のようにあちこち転がっているのにも、青年は既に慣れていた。あれこれ自分に話しているが、青年にはたいして興味がなく、気に入らなければ、そして邪魔なら消せばいいと思っていた。その辺の雑魚には負けない力はある。
何処にでも、光はある。
しかしそれと同時に、闇もある。
青年はすでに光の外にいた。
いや、光など生まれてこのかたあっただろうか……。
昔、今よりももっと"いいもの"があったそうだ。
青年はひかれていた。自分の埋まらない何かを埋めるように欲した。そして手にいれた。手を、体を、血で染めて笑った。
なんて愚かなのだろう。
なんて醜いのだろう。
――――愉快な術などを研究しているものが、冷たい青年にずっと喋っている。
青年は話など聞いていない。その、研究してあるものを見ていた。もう少しで使えるだろうというそれに、青年は思い付く。
昔は存在していたが、今は存在しない。そして今それは禁忌とされてしまっている。それを何とかしようなどと、許されるはずがない。だか、今さら何を恐れることがあるというのか。
自分は、欠けていた。
人間とヴァンパイアの間に生まれた、どちらにもなりきれぬ混血児。"役立たず"だった。
血を必要とするのに、力は成長したあとでも人間よりいくらか強いというだけ。
欲しかった。
何を、だなんていわない。
この、どうしようもない衝動。
青年は、その日とある人物の首を刎ねたのだった。
そして、その人物が持っていた術式などを手に、研究を始める。
ある程度は、形となった。
だが、完璧ではないことに苛立つ。
多くを知りたくても、青年―――今は老人といっていい―――は寿命を嘆く。
混血児である自分は、確かに人間よりも長い寿命であったし、老いるのも緩やかだったが、時間が来ようとしていた。
男は焦った。
器を探した。出来るだけ可能性があり、それでいて若い器を。見つけて捕らえた。
まだ完璧ではないが、出来る。可能だ。だから躊躇いなどなかった。
そして、何度も何度も繰り返す。
――――禁術。
自分がどこの誰であったか、思い出せなくなるくらい。
―――――………。