とある神官の話


 ここにいる以外にも、新たに動いているものたちがいる。

 それはアーレンス・ロッシュの息子たちである。本来ならば私が、とアーレンスはいっていたが、彼はバルニエルを離れるわけにはいかない。そんなアーレンスの変わりに、彼の息子らが参加しているのだ。

 彼らには別のルートで"あの場所"へと向かってもらっている。


 とはいえ、シエナがいるとは限らない。それを皆が理解した上での行動だった。
 主戦力は、無論こちらである。




「――誰もこんな奥地に建物があるとは思いませんよね。まわりは山やら川やら大自然ですし」



 周囲の木々を避けながら、エリオンがいう。その呼吸は少し乱れていた。




「人目につきにくいからな。奥地だと魔物も多いから普通のやつは深入りしねぇだろうし―――大丈夫か?」

「ええなんとか…。訓練を思い出しますね」

「あー…確かに」



 神官となるためには、専門の場所へ通う。そこではこんな、山道を歩く、だなんていうのもあるのだ。
 それは闇堕者らが人目を避けて、なにかをやることがあるという、対闇堕者の訓練の一つといっていい。ランジットはとくに戦闘に特化したほうを選んでいたから、こういった訓練を多くしてきたはずだ。「最初は地獄だと思ったなー」などと今はのんきにいっているが、当時は結構なものだったに違いない。


 木々や生い茂る植物らを切り開きながら進めば、少し開けたところに出た。先頭を歩くハイネンの足が遅くなるのに、ゼノンらも同じくゆっくりとなり、やがて止まる。

 日差しが照りつけるため、眩しく目を細める。
 



「――――建物は、もともと屋敷としてお金持ちの持ち物だったそうです。なので村も近くにあったのですが……入り込んだ連中の犠牲者になったのではないかといわれています。ああ、ご覧なさい」




 井戸らしい円形や、腐った木々が転がっている。あとは家の跡。屋根はすでにない。
 草が伸びて隠している地面を進めば、割れる音がして身構えたが、見ればガラスの破片であった。

 この辺りは確か、セラヴォルグが死んだ後に清められ自然に戻されたはずだが……。
 ゼノンはゆっくり進みながら周囲を見ていた。他の者も同じように注意を向けている。

 どれ程の人が死んだのか。
 どれ程の血を吸ったのか。

 大人だけではない。子供までもが犠牲となる。各地から集められ、人知れずひっそりと血を流し、死んでいく。何処の誰かさえわからないことがほとんどだ。


 ゼノンはふと、聖都にいるブエナを思い出した。シエナ繋がりで知った彼女は孤児院にいる子供たちの母をしている。
 
 ―――どうして殺す。

 理由がある場合よりも、理由のない殺人のほうがその問いをぶつけたくなる。何故。
 年齢問わず、誰もが己の死を理解したとき、助けを求めたことだろう。何者かが救ってくれることを願っただろう。


 シエナはセラヴォルグが聖都へと行かなくてはならなくなった時、一人彼の帰りを待っていた。そして、ウェンドロウに連れ去られる。連れていかれた先が――――。




「キース!」



 鋭いランジットの声に、キースは身をひねってその刃を避けた。それは止まらず両手に短剣を構えてまた突撃してくる。



「敵か!」

「それ以外に何がいる」



 ランジットの言葉に返しながらも、相手は地面を蹴って迫ってくる。ランジットの攻撃を避けてみせた。

 続けてゼノンへと襲いかかってくる!

 ゼノンはかわすことなく、切り伏せてみせた。
 地面に転がったそれは、人形である。人とは違うもの。しかもただの人形ではないらしい。転がった人形が再び動き刃をふるったそれから後ろへと逃げる。ちらりとみればエリオンが数体の人形に囲まれつつ、自分の能力を発動させて身を守っていた。
 エリオンは能力持ちである。能力は、"守護"。防壁を展開させて身を守っているのだか「先輩ー助けてくださいー」と声をあげた。

 そのままでいろ、だなんてゼノンはいわない。ここにいる者のなかで能力持ちの一人であるし、そしてなにより"魔術師"の能力持ちなのだ。
 子供くらいの大きさの人形を倒しながら、エリオンを囲んでいるそれに向けて氷を放つ。人形は氷の中に閉じ込められ、さらに力を込めると粉々に砕け散る。






< 721 / 796 >

この作品をシェア

pagetop