とある神官の話
人形は驚くほどヒトらしかった。なので少々やりにくいというのは最初だけで、わかれは問答無用にキースらは倒していく。
転がった人形を見ると、どれも美しい顔だった。もう少し小さければ女の子たちが持つ着せ替え人形のように見えるだろう。
しかし。
何かを倒すために動かされているものとしては、身なりも顔も美しすぎる。
一体、何なんだ?
その美しい子供の姿の人形は、ただ切っただけでは駄目らしい。
地面へと転がり、上半身だけとなった人形は這うようにして動き、ゼノンの、足めがけて短剣を振りかざす。が、そのままやられるはずがなく、氷づけの後粉々となった。
「大丈夫か?」
「ああ…しかし、何なんだこれは」
まわりを見ると、大体が終わっていた。エリオンに関しては「防ぐのも楽ではありませんね」ともらしていた。他の者らの守りもしているので消耗しているのだろう。
エリオンをかばいながら、現れた"それ"を睨むように見た。
「随分粋な出迎えじゃないですか―――ヤヒア」
建物の残骸らしき、コンクリートの最上にら影。無造作に腰かけている青年の姿があった。
燃えるような色の長髪の青年の手には何かを持ち、そのすぐ下には人形がぶら下がっている。いわゆる、人形劇などで見られるようなものと似ていた。
こんな地では不似合いな今時の青年は「助けて下さい、と娘の父親は王様にいいました」と操り人形を動かす。向かって右が少し身なりが豪華な人形で、左が普通の服の人形だった。
ヤヒアは自分のいった言葉に会わせて人形を動かす。
「王様はそれを見て、ならん、といいました。その男の娘は若くとびっきり美しい者であり、王様はその娘が欲しくてたまりませんでしたが、再びならん、といいました」
ヤヒアの人形劇は続く。
ランジットは、いつでも飛び出せるよう低く構え、様子を見ている。前にいるハイネンもじっとしていた。
一体何をしているのか?
そもそも何故ここに…?
「王様に断られた父親は、自分で娘を救うすべを探すために家をよく空けました。その間に、一人でいた娘は王様にさらわれてしまいました。そして、王様は目を閉じたままの美しい娘を、殺してしまうのでした―――何故王様はせっかく奪った娘を殺してしまったのでしょう」
姿を見せていた人形が、炎によって燃え上がり、あっというまに消えた。ヤヒアには王様らしき人形が残り、娘の父親と向かい合っている。
キースが険しい表情でゼノンを見た。ゼノンもまたそれに目をあわせたが、すぐにまたヤヒアへと戻る。
今すぐあの口を縫い付けてやったなら、どんなに良いだろう。
笑うヤヒアに対峙する向こうで、大きな音が響いた。それに驚いたらしい鳥が空へと舞うようにして逃げていく。「な、なんだ…?」とランジットと「向こうだとあの兄弟では」というエリオンの小さな呟きを耳にした。
ヤヒアはそんなのを気にしないまま続ける。
「いくら若くても時がたてば美しい容姿は変わってしまいます。王様はそれに堪えきれず、最も美しい姿のままの娘を目に焼き付けて、自分のものとしたかったのです。誰のものでもなく、自分のものに――――なーんてね。今なら見た目を誤魔化すことくらいやってる人はいるよね」
「人形からのダンスの誘いの次は人形劇ですか。盛りだくさんですねぇ」
「だろう?」
手元にある人形を、ヤヒアはまた炎で消し去る。
ただ見た目だけなら、能力持ちの青年でしかない。だがヤヒアは殺人者として指名手配されている人物だ。そう簡単なものではない。
「どうしてそう、のこのこ来ちゃうのかなー。自殺願望でもあるの?」
「ありませんよ。こちとらばりばりイケイケの生きまい願望者ですからね」
「なんだ残念。ま、あってもなくても――――殺しちゃうけど」
再びあの美しい顔の人形らか立ち上がり、襲いかかってくる。ヤヒアはコンクリートに座ったまま「さってと」と此方には顔を向けず、どこかを見ていた。長い髪の毛が風に揺れている。
ヤヒアは一体何をするつもりなのか。
ゼノンは襲いかかる人形を斬り倒し、凍らせ、時には炎で焼きつくしながらそちらに注目していた。
ゼノンが来るのを知っていたのはなぜだ?
あれこれ考えていたなか、はっとした。何か聞こえた。それは、悲鳴。悲鳴悲鳴悲鳴!亡者の慟哭。ヤヒアはそれを聞きながら、うっとりとした表情を浮かべた。
「……大きな獲物がかかった」
ヤヒアがうっとりとしたまま呟く。
その間でも幽鬼の悲鳴が響くそれに、揺さぶられるような心地になる。大きな影響…?
堪えず美しい人形らはゼノンたちを襲う。邪魔だ、とゼノンは一気に数体の人形を氷づけにする。
「酷いね。美しい人形にも容赦ないんだ」
コンクリート上にいるヤヒアは腕をふるう。猛火!
回避をとる。キースやハイネンらの前に赤毛。鋭い蹴りが炸裂。キースとハイネンの間に距離が出来る。防がれた炎は流れ、木々を焼いて視界を赤や橙に染めていく。熱い。守りの術が聞いているから火脹れなどにはならないが、熱い。