とある神官の話
ヤヒアはさらに炎を放つ。それをエリオンが「熱いんですってば」と文句をたれながら防ぐ。その隙にゼノンが炎を消し去るべく辺りを氷付けにし蒸発。続けて地面を蹴りヤヒアへ向かって剣を振りかざす!
振りかざした剣は、ヤヒアにもって止められる。
「んー、君にはまだ死なれちゃ困るんだよね」
「死ぬ予定はありませんよ」
剣が弾かれる。ヤヒアは距離をとり、笑う。すぐさま人形らが襲ってくるのできを引き締める。
やはり、ここには何かある。
それはヤヒアがいることだけでは確かなものにはならない。だが、全くないよりは、あるほうが可能性が、と考えられるだろう。
ハイネンが隣に並んだ。まわりではキースとランジット、それからエリオンが人形の相手をしている。
「何でそんなに必死になるかな。いくらでも美女がよってきそうな顔をしているのに」
「あいにく興味がありませんのでね、彼女しか」
「でもさ――――あの子のことを知ったとき、恐ろしいって思ったんじゃないの。気持ち悪いとかさ。そんな子のことを助けるの?愛とかいって?」
……思わなかった、といえば嘘になる。
驚いた。だが、ゼノン自身だって綺麗なものじゃない。醜くて、どうしようもない。だが、過去を知ってからのほうが、ずっと強く思える気がするのだ。
愛だなんて、見えない。
それでも、だ。
それでも愛する。愛が残る。
「ええ。助けますよ」
「もしかしたら、殺さなきゃならないかも知れない。君は殺せるの?」
万が一、手のつけられない状態であったなら大きな被害となる前に―――手を下さなくてはならない。そのことはわかっている。頭では理解している。そして、他の者にされるならと思うこともあった。だが、本当に出来るとかといったら、わからない。たぶん、何とかしようとするだろう。
信じるしかなかった。
ゼノンは聖人ではない。ごく普通の思いや考えを持つ、少し頭の回るというだけの高位神官でしかない。
ゼノンは笑ってみせた。「だとしたらなんだというのです」予想外だったのかヤヒアは眉を潜める。だが。
「じゃ、せいぜい頑張って。僕は―――美しい人を探しに行くから」
「待ちなさい!」
ヤヒアが放った炎は紅蓮となり、ヤヒアとハイネンらの間に走る。躍り狂う炎に怯みながら、ゼノンが鎮火させるが、そこにはすでにヤヒアの姿がなかった。
周囲は酷い有り様だった。
ヤヒアの炎によって、かなり木々などが焼けてしまっている。ヤヒアが消えたことにより人形もまた退いたようだが、倒れた人形らは黒く変色し、無惨な姿をさらしている。そしてまだ幽鬼の悲鳴が空へと響いていた。
まるで地獄だ、と思った。
乱れた呼吸を整えながら、「大丈夫か?」というランジットの言葉に頷く。皆は無事で、怪我もさほどない。守りの術があればこそ、だ。
「ったく、ヤヒアが出てくるとはな」
「可能性が出てきた、ということか」
疲れたような息をはいたランジットとキースは、そのまま視線をさ迷わせる。
「それに…あの美人愛好家がいっていた美しい人って誰のことなんでしょう」
ヤヒアの言動はひっかかる。ゼノンも考えていたところだがら、と木々の向こうを見たままのハイネンを見た。つられるようにエリオンらもまた視線をむける。このなかで最も年長であり経験豊富で、物知りであろう彼に。
大きい獲物。
美しい人。
誰のことをさすのか、予想はつく。
まずは、レオドーラたち。しかしレオドーラと一緒である男は、何者かわからない。ハイネンのことを向こうは知っているようだか、ハイネンはまだわからない。
それから、ヤヒアやあのアンゼルム・リシュターを憎む…アガレス・リッヒィンデルということも考えられる。
アガレスならば、情報を得ているかもしれない。