とある神官の話
「―――わかりません。ですが我々の他にも誰かが来ているのでしょうね。レオドーラのこともありますし…ロッシュ兄弟らのもとにも今ごろ何か動きがあるでしょう」
「戻りますか?これだけやられたなら、多分神官らも派遣出来ますよ」
「戻るにしてもまだです。セラが命を落とすことになった場所はここからまた奥ですしね」
向こうはまた木々によって様子がわからない。たが昔、シエナが連れ去られて、助けるためにこの地へやってきたセラヴォルグが命を落とした場所は、まだ先なのだ。
その場所に、シエナがいるかもしれない。
そう思うとゼノンは今すぐにでもという衝動にかられる。だが、自分一人で突っ走っても意味がない。今ここにいるのは自分だけではないのだ。
仲間がいる。
ゼノンがシエナを救いたいと思うのと同じように彼らもここにいる。
―――無事でいて下さい。
ゼノンはそう願いながら、歩き始める。
* * *
――――死者、か。
レオドーラは考える。
本来ここ、つまり現世にいてはならない。死者は死者のいるべき場所がある。
時おり、こうして呼び戻されてしまうこもがある。神官がやる魂呼びも"呼び戻す"が、一応認められてはいる。やるときにはあれこれ許可が必要だし、準備や縛りがある。
この世に死者の魂を留まらせて器に定着させるのは、禁忌とされているのだ。
レオドーラと共にいるマノ、と名乗った男もまた、死者である。
ぱっと見れば、器となったそれが美しくまた精巧なものであるから、美しいな、とは思っても見分けがつかない。
召喚者といい、器の作成者といい、どれひとつマノがいうことはない。ただ、レオドーラが"人形"であることを指摘したそれに、そうだと頷いたくらいなのだ。マノが何処の誰であるのかはさっぱりで、レオドーラは未だにこの男の正体を掴めずにいる。
マノが自分のことをいわないのは、ハイネンやアーレンスらと知り合いか、ということが関係しているのではないか。
死者が、生前の時の知り合いに会いたくないというのは悲しくなるからであろう。死者は、死者でしかない。
死者と生者。
目の前にいても、その事実は変わらないのだ。
それから、ゼノンらのこと。
ゼノンらは必ずここに来る。いや、もう来ているのかもしれない。
レオドーラはそんなことを考えながら「邪魔だっつーの!」と襲いかかってくる魔物を斬り倒していた。
さっきからずっと、魔物やら幽鬼やらに付きまとわれている。ストーカーかよ!だなんて一人で愚痴りながら、乱れた呼吸を繰り返しつつ、落ち着かせていた。
「マノ、大丈夫か」
「私のことはいい。自分のことを考えろ」
そうきっぱりマノはいい「死者は死者でだからな」と続ける。それは自虐的でレオドーラは少しむっとしてしまう。
「だがそれでも、今は、二本足で立って歩いてくっちゃべってるだろーが」
いくら体が人形と変わらなくても、こうしていることは、生者と変わらないではないか。肉体はともあれ、魂はヒトなのだから。
「死者は墓の下、幽霊はうらめしや、って決まってんだよ!」
レオドーラの言葉に、一瞬マノはきょとんとした顔をしたが、やがて「なんだそれは」ふっと笑って見せた。
まだ、平気だ。
だかいつまでもつか、わからない。
マノは時間がないといっていたし、何よりひびが入っているのをレオドーラは知っている。できるだけレオドーラはマノの負担を減らそうとしていた。
自分はマノとは違う。マノは自分のことを考えろというのは、あっている。レオドーラとて無敵ではない。無理をすれば死ぬ。だが、それでもマノのことを知ってしまった以上、レオドーラは無視することはできなかった。