とある神官の話
大きく息をはく。
気にかけているが、向こうはレオドーラよりも経験豊富であろうし、知識もある。今だってそうだ。魔物と戦ってもすんなり倒してしまう。
己はまだ未熟だ、と感じた。
「我々が一番遅いらしい」
「おい」
「問題はないさ。ハイネンらの他にも―――どうやら誰か来ているようだ」
「誰かって…わかるのかよ」
「勘」
「……」
さっきから幽鬼の声や魔物の咆哮、爆発音などが聞こえていた。それらはまあ、ゼノンらだろうとレオドーラは思っていた。彼らが自分等と同じように敵と戦っているのだと。
しかし…。
マノの勘(もはや何もいうまい)とやらが、他にも来ているようだといっているのが気になる。他。ゼノンらの他なら、敵か?しかし敵といったらシエナをさらっていった連中で。いやしかし…。
ちらりとマノを見たものの、どちらともいわない。マノもわからないのかもしれない。
さて、とレオドーラはマノにどうするか聞こうとして、"何か"を感じて避ける。遅れた髪の毛の先が少しもっていかれてしまうが、かまうか。
刃を握るのは、燃えるような色の髪。レオドーラに攻撃するのと同時に放たれた炎がふっと消え失せた。
男――――ヤヒアは首を傾げる。
「あれ、予想外なんだけど。誰?」
「お前がいるってことは、やっぱりビンゴっていうわけか」
レオドーラは不敵な笑みが浮かぶのがわかった。こいつがいるなら、もしかしたらと。
身構えるレオドーラをヤヒアは見ていたが、やがてマノへと視線を向けている。
「なになに。もー、めんどくさいから殺そうかな」
手のひらに炎がゆらめく。
もちろん、そんなことを言われて、はいそうですかと殺られるつもりはない。だが、相手は指名手配されている、能力持ちの男だ。レオドーラはただの神官である。今だって勘で動いたからよかったが…。
嫌な汗が流れる。
「君たちに用はないしね。アガレスじゃないならどうでもいいし」
「アガレス…?」
「君ごときにアガレスが殺られるとでも?」
黙っていたマノが口を開く。
おい、とレオドーラはマノへいうものの、やばいと思った。ヤヒアの表情が不愉快そうなものに変わった。なにそれ、と鋭くマノを見つめていた。
アガレスを探していたのか?いや、アガレスもここにくるのか…?
どちらにせよ、レオドーラは今が問題であるのは理解している。
しかし、怒らせてどうする。
まあ怒らせても怒らせなくても同じだろうが。同じ、なのだが…。
勘弁してくれよ、といいたい。
こっちはただのリムエルなんだぞ、と。
そんなことを気にしていない、というマノに苛立つヤヒアが動き出した。炎が牙をむく。
まるで生き物みたいだな、などと冷静に思っている場合ではない。間違えば丸焦げだ。マノをと思うものの、はっきりいって自分のことで余裕があまりない。
放たれた炎は逃げ場を狭めていく。
どうする!
焦るな、と言い聞かせる。熱い。やべぇ死ぬかも、などと思っている間はまだ大丈夫なはず。熱い熱い熱いって!
反応が遅れた。
やばい、というレオドーラのすぐ近くに「おいマノ!?」マノがやってきていて、レオドーラの腕をとる。そしてそのまま放たれた炎へとつきだす。
マノに掴まれたレオドーラの腕は炎へと呑み込まれ―――ることはなかった。
むしろ、ヤヒアのほうへと逆流したのである。
「な、なんだ?」
「対能力持ち用として習わなかったか?」
「…俺能力持ちじゃねーし」
「ふむ。もしかすると教える内容が変わったか…?」
「違げーよ。知ってる、知ってるけどよ…俺成功した試しがねぇから」
レオドーラにはそういう才能がこれっぽっちもない。だからこそ剣の腕を磨いてきた。
そう。
マノはわざわざ能力持ちでもない神官でも訓練次第では使うことが出来るもので反撃したのである。長々とぶつぶつ文句(呪文だがレオドーラには…)をいいながら、"神官であるレオドーラの力"を引き出したのだ。お陰でレオドーラはなんだかグロッキーな気分である。
成功したぞよかったな、などといわれている場合ではない。