とある神官の話
「あんだけでかいと、さすがにな……」
ランジットが気持ち悪い、などといいかけて、空を見た。ゼノンもまた同じく見上げる。
光。
それは流れ星のように落ちていく。
「ロッシュ兄弟か」
最初から大人数は無理だった。だから先にゼノンらが入り、危険であることを確かめなくてはならなかった。
あれが上がると、聖都に連絡をとり、神官派遣がされることになる。
ロッシュ兄弟があれをあげたなら、彼らら確かめたのだろう。確かめた、なら攻撃を受けているはずだ。無事だといいのだが。
落ちていくのを見ながら「あまり大人数派遣されても困る、か」ともらしたそれに、ランジットが間を開けて「シエナか」と。それにゼノンはうなずく。
アーレンス・ロッシュから聞いた話が蘇る。あのとき、アーレンスしかいなかったからこそ、出来た報告書。
シエナが無事なのかまだ確認できない以上、どうなっているのかわからない。そんななかで派遣された神官が来たら厄介だ。派遣されるまで時間がかかるのは理解しているが、早く我々で何とかしなくてはならない―――シエナさん。
不安を抱えたまま、さっとまわりを見渡す。ハイネンらと合流しなくてはならないのだが……いくつか気配がある。
ランジットもまた小さく頷くと、剣を握る。逃げても追い付かれる。なら。
「討つぞ」
何が来ようと、倒すだけだ。
それはまず、ランジットの背後から出てきた。黒いフードの幽鬼。亡者の声。怨嗟の声に体が重くなるが、動く。
ランジットとは付き合いが長い。
二人なら、敵わない相手ではないはずだ。
清められている剣は幽鬼が嫌がる。だが嫌がるといっても逃げてくれるわけではない。ランジットと幽鬼がやりあっているそれと、ゼノンにもまた幽鬼が襲いかかる。大鎌が命を狩ろうとしてくる。
早く。
幽鬼の攻撃を避け、反撃しながらも焦っていた。ここにきてから、焦りが強くなってゼノンを乱す。ハイネンらが先にいっている。大丈夫。ここを片付けたらいけばいい。早く。早く早く。
早くしなければ。
シエナさんが―――――。
「っ!ゼノン」
迫る刃を避けようとしたが、避けきれず守りの術が軋みひびが入る。割れてしまえば、ゼノンの体に傷がつく。
焦って回りが見えなくなってどうする。
ランジットの焦る声にはっとさせられた。ランジットは相手にしていた幽鬼を倒し、こちらを見ている。
割れるのが先か。
――――が。
そのとき、すぐ近くから何かが飛び出してきた。新手か、と身構えたゼノンをよそに、それは幽鬼へと向かい、消し去ってみせた。
黒髪が揺れ、こちらに振り向く。
「大丈夫かよ―――エルドレイス高位神官殿?」
驚いた。ランジットのように「お前!」と叫ぶようにはいかなかったが、「レオドーラ」とやや強く名前を発した。
わざとらしく名前を呼んできたのは、バルニエルで行方不明となったレオドーラ・エーヴァルトだった。「大丈夫ですよ」と返すが、ゼノンはレオドーラの見て無事であることに素直に安堵したが、無傷ではなかった。
衣はあちこち破れ、切られたようなのもある。が、目立つ大きな傷はない。
それから、気になることがまだある。
「お前らだけか?」
「いや、途中で分かれた。ハイネンやキース、エリオンと私らがメインで動いていた。あとはロッシュ兄弟が」
「ファーラントらかよ。あー、そうか。アーレンス・ロッシュはバルニエルから動けないからか」
「ええ。代わりに、と」
なるほどな、とレオドーラが頷くと「なあマノ」と振り向く。近くには男が立っていた。先程からランジットはそちらから目を離していない。なにも言わないのは、判断をゼノンに任せているからだろう。ゼノンもそれを理解している。
その男は、酷い有り様だった。
だがそんなのお構い無しの、道端で会った人が挨拶するような雰囲気で言葉を発する。
「まずは挨拶といこう――――私のことはマノ、と呼んでくれればいい。君がエルドレイス高位神官か?」
「ええ。ゼノン・エルドレイスです」
マノ。
聞き覚えなどない。
君は、とランジットにマノとやらは聞いて、ランジットがやや戸惑いながら返す。
それもそうだろう。
「まさか、"人形"だとは思っていませんでした」
―――――そう。