とある神官の話



 あのヒーセル枢機卿が、マノの召喚主?

 マノが目を覚ましたとき、室内に倒れていた人が目についたという。顔をみると、見覚えがあった。それがハラド・ヒーセル。神官だった……今は枢機卿などとマノはいっていた―――そうなると、マノはヒーセルのことを知っている、ということになる。
 逆をいえば、喚ぶ側のヒーセルまた、マノのことを知っている、ということになる。


 ゼノンはそれを指摘する。
 マノはどう返すか。


 予想通り、というか「鋭いな」としかマノは笑った。彼がいう通り、死者は生きている者の邪魔にはならないというなら、言わないというそれが、邪魔にはならないための選択なのか。
 レオドーラが「もっと早く言えよ!」とわめいているから、彼もまた知らなかったのだ。


 ―――何者なんだ?
 何故シエナの名前を出して、助けようとする?それが、召喚者からのの縛りか?だとしたら召喚者であるヒーセルはなんのために?自分は闇に通じていたのに。

 考え込むゼノンは、マノの視線を長く受けていたことに気づいた。マノはややあって「美丈夫だなと」と場違いなそれに、ゼノンが「は?」と聞き返した。
 レオドーラもランジットもまた、きょとんとしている。

 

「よくいうだろう。顔と口の上手い男には気を付けろ、と」



 意味がわからない。
 レオドーラもレオドーラで「ならお前だって今はそうだろうが」と反論。反論するな、とはゼノンは言えない。だが、正体不明すぎる男に警戒しなさすぎではないか。




「ならここにいる全員があてはまる。知的に男前に、女顔」

「お前さ、俺に恨みでもあんのかよ!女いうな!」

「なあ、今の聞いたか?俺のこと男前だって…!」




 なにを感動してるんだ馬鹿者。
 レオドーラといい、この馬鹿といい慣れすぎではないか。
 ゼノンは、頭を抱えたくなる。

 レオドーラはバルニエルでマノに出会った。そしてマノからの言葉は"シエナ絡み"。
 レオドーラはあのまま見逃すなら側にいたほうがいいと判断したのだろう。が、ゼノンらと出会うまでの間それなりに一緒にいたことから「俺は信じる」といったそれには、ゼノンはただそうかといっただけ。ゼノン自身は半々、というところだった。

 


「少し力を抜いたらどうだ」




 誰のせいで、というよりも動けなかった。
 ゼノンの動きを止めたのは、太陽の光を反射し輝きを見せる刃だ。抜いたのがわからず、ゼノンは焦った。
 下手したら、そのまま首を刎ねられていたという事実。
 死ぬことには、恐怖感がある。だからこそ防衛反応というものがある。手を出して庇おうとか、そういうのが。
 だが、マノにこうして刃を添えられて恐怖は感じなかった。それよりも目を見ていた。目に惹かれた。

 何してんだよ、というレオドーラを無視した。




「青いな」

「……」




 マノは刃をおろし、やや息をはく。




「頭に血がのぼったままだと死ぬぞ。君が死ねば様々なことに影響していく―――あの子を泣かせるつもりか」




 自分は、悲しませたいわけじゃない。

 ヴァン・フルーレでは傷つけてしまったが―――謝らなくてはと思っていた時、ゼノンはアンゼルム・リシュターから術を喰らって動けなかった。
 その間、シエナはゼノンのことを聞いてバルセロナから聖都にやってきたという。


 誰のために。
 ゼノン・エルドレイスのために、だ。


 そして、彼女は姿を消した。

 ゼノンはそれを知ったとき、愕然とした。自分が眠っている間の出来事を聞きながら、自分のことを呪いたくなった。何故。あのままバルニエルにいたら、アーレンス・ロッシュらによって守ることができたはずだ。

 何故、聖都にやってきたんですか。
 ゼノンがそういいたい相手は今はいない。

 それに、何故だなんていえる立場ではない。もし、逆の立場ならゼノンも同じようにシエナのもとに向かっただろう。

 過ぎたこと、起こったことを今さらとやかくいっても意味がない。
 シエナを守っていたランジットだって、自身を責めたはずだ。

 出来ることは?




「……簡単にいいますね」

「難しくいっても簡単にいっても同じだろう」



 シエナを助けようとする者は、シエナのことを知っている。シエナもそうだ。
 そんな人物らが死ねば、シエナは自分を酷く責めるだろう。来てほしくなかった、と。何故と。

 マノのいうことはわかる。
 死ぬつもりはない。だが覚悟はしている。いろんな覚悟を。







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