とある神官の話



「怪しさ満点の貴方に言われるとは」

「だからこそ理解出来るだろう?」




 苦笑を洩らすと「なんちゅーか」とレオドーラが「 目的はわかってるんだしよ、あとはぶっぱなすだけだろが」と。確かにそうだが。このレオドーラ・エーヴァルトはそういう、おおざっぱというか…ランジットとはまた違う豪快さがある。

 だから、シエナと親しかったのだろう。さばさばしているから。
 小さな嫉妬が出てくるくらいの冷静さを取り戻した。


 冷静さを取り戻したゼノンを見計らったようにマノが「さて」と話を続ける。




「彼らには彼女は殺せないはずだ。彼女は今でも間違いなく生きている――――それから、彼らは彼女の中に眠る術式は欲しいものの、方法がわからなければ意味がない。まあ、探しているだろうがね」




 シエナに眠る術式についても知っているのか。
 まさか喋ってないよな、とレオドーラをちらりと見る。レオドーラは俺じゃねぇよという顔をしていた。さすがにレオドーラとはいえそんな怪しい人物にべらべら話しはしないだろうが、一応ゼノンは見ただけである。
 
 ならば、マノはどうやって知ったのか。




「しかし、だ。殺せないという事実が、死なないということにはならない」

「どういうことだ?」

「……死に追いやる、と?」

「そうだ。殺したくても殺せないなら、死に追いやればいい。例えば自殺なんかがそうだな。精神的に何か手を下せば簡単だろう」

「…物騒な話だな」

「守りが効いているから、安心だ、とは言い切れないということだ。しかし彼らの目的はあくまでも術式だから、取り出す方法か何かを発見しない限り、生きていて貰わなくてはならないこと等を考えると、彼女は生きて要いるといえる。何をされているかまではわからないが」




 最後の言葉が不安と焦りを呼び寄せる。

 眉を潜めたままのゼノンらをよそに、マノは冷静だった。その冷静すぎる言葉にゼノンは自分の感じている焦りや不安が、未熟だと感じさせられる気がしてならない。

 淡々と話しているマノを、信じているかそうではないかといったら、ゼノンは間違いなく信じていない。信じきれないのだ。

 シエナの過去などは、一部しか知らないはずだから。
 焦るな、というほうが無理な話ではないか。「なら早く行こうぜ」というレオドーラの言葉もわかる。マノもわかっているからか「いいか」と続ける。




「あの子の命は守りの術があるからいい。他は敵と、我らの生死が一番気を使う。簡単にくたばっては意味がないからな」

「まあな」

「敵とあったら、やたらむやみに近寄るな。術式を喰らったら…わかるな?」

「ええ。わかってますよ。二度目はごめんですし」




 二度目?
 ああ余計なことをいったか、と思ったが聞き返されたからと「聖都で」とゼノンは"あのこと"を話す。いいのか、といいたげなランジットを無視した。

 マノが敵だとは、思えない。

 万が一、敵であった場合はゼノンのほうが有利であるし、間違いなく勝てるだろう。それはマノが死者であるからで、あの器ではどうにもならない。やりいことになったら、その器を脆さをつけばいい。
 そんなことまで考えている。いや、まで、ではない。必要なのだ。

 話しながら、あらためて自分が術式を喰らったばかりにと思う。あれがなかったら、と。マノは少し考える素振りを見せると「どうやら向こうも焦っているようだ」と続けた。

 今までずっとひっそりと行動していたのに、何故。
 それはやはり、ひっそりと行動していられなくなった、ということか。向こうが動かなくてはならない理由があるのだろう。それは一体どんな理由なのか。


 マノは知っているのか。

 そう思ったが、マノは何も言わない。かわりに、よし、と強く声をはった。





「姫君を奪還しに行くとしようか、諸君」




 わざとらしくそう言ったマノに、ゼノンらはわずかに笑みを浮かべながらいった。





  * * *  







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