とある神官の話
* * *
天井にあちこち穴が空いていた。一部は穴、というよりもごっそり抜けているといったほうがいいくらいの大きさとなっている。
広い所だった。
あちこち気味の悪い何かが描かれている。気持ち悪くなるのは、禁術かなにかでも混じっているからだろう。なにか発動されるかと気にはなるが、それよりも。
ここで、とある人物が命を落とした。
そしてその数年後の今、また同じようなことが起きている。
それはどこか欠けている、という印象だった。死者のような、生気のない顔。
もう一方は影がヒトの姿となっていた。
何の冗談だ。
アゼルは固まったまま、目の前のものとアガレスとを見ていた。
ここに到着してから、アガレスが目を見開き「アルエ」と名前を呟いた。アルエ。それは前にも聞いた名で、"アルエ・ネフティス"ではなかったか。
生気のない顔は、人形である。
人形は人形とはぱっと見ただけではわからないほど、人らしくつくられていた。しかし、同じ顔の者が何人もいれば不気味でしかない。
前のアガレスの様子だと、その"アルエ"という人物は彼にとって大切な人物であることは間違いない。
だが―――あの人形が、"アルエ"と同じなのだと思うと、腸が煮えくり返る。
影は人形へと手らしきものを伸ばした。
「前につくらせておいたものだ。よく出来ているだろう。こちらのほうがオリジナルよりも元気だが」
止めるまもなく、アガレスがひとり前へと跳躍。影へと刃を向けるが、それに割り込んできたのは「っ!」あの人形である。アガレスは攻撃を防ぎながら回避、後退するしかない。
影の低い笑い声がした。
「どうした。私を殺すのだろう?」
知った顔を持つ人形。人形だとわかっていても、躊躇うのは仕方ない。アガレスは落ち着くように息をはく。
悪趣味、というよりももう異常者―――闇に堕ちた云々ではない。人の皮を被った化け物ではないか。
アゼルだって、様々な者を相手にしたことがある。だが、違う。この男はどうにかしなくてはならない。どうにか。倒す。だがどうやって?
敵はなにもそれだけではない。
生身の人間も姿を見せて「したっぱってか?」「使い捨ての駒というわけか」アゼルらへと向かってくる。
アゼルもラッセルも能力持ちである。が、アゼルの能力はラッセルの炎よりもやや劣る。"身にあらかじめ仕込んで"いなくては意味がない。
もちろん、ここに来るまでに仕込んできている。清めてもあるから、効果はあるはずだ。
人形には自分の命をどうも考えていない。捨て身だ。だが生身は違う。多少なりとも生命を守ろうとする。
もっとも…こいつらは違うらしいが。
ある程度傷を負えば動きが鈍る。死にたくない、などと思う。どうすればいいか、という、生存のための行動を彼らはとらない。むしろ「おいおい悪夢かよ」人形のように捨て身で向かってくるのだ。
アゼルは血まみれのまま動く者にとどめをさした。
アガレスとリシュターから考えられるのは、アルエという人物がすでに亡いこと。それにリシュターが絡んでいるということ。
わかっていて、リシュターは"アルエ"の顔をした人形を戦わせているのだ。
「……化け物め」
アゼルの口から呪いのような言葉が紡がれる。その雰囲気にラッセルがやや青い顔をした。小さく呟くのは、「女は怖い」。誰が怖く、いや、強くさせる原因を作ってるんだ、なとという力はない。
刃が飛び交う中、ラッセルの放つ炎は焼き尽くす業火となり、敵を飲み込んでいく。嫌な匂いが掠めていく。
アガレスはというと、相手は人形だとわかってはいるはずだ。だが、頭のなかには"アルエ"がちらついているらしい。迷いが相手からの攻撃を受けるという形で出てしまっている。
「いくら時間があっても足りないほど、研究する材料は多い。研究して得られたものは次に活かすから、安心して死んでくれないか」
「貴様が死ね」
「その言葉、二十年くらい前も聞いたな」
黒い影に近づこうとすれば、その度に人形が割り込み邪魔をする。
アガレスはもう躊躇いはなかった。
人形に容赦なく刃を打ち込んでいく。