とある神官の話



 アガレスが笑った。
 それは久しぶりに会った友人に向ける、純粋な笑みだった。




「相変わらずのようだな」

「ええ、絶好調ですよ。うふ」

「お前の教育はどこで間違えたのやら…」

「拾い主はアガレスなんたらという人ですから、多分その人のせいでしょう」

「私のせいにするな。少しはあいつのせいでもあるだろう」

「まあ、センス以外は、でしょう。そう考えるとよくまあ、シエナが普通に育ったものだと思いますよ」

「センスはともかく、似ているからな」
 




 アガレスとハイネンの会話は、友人そのものだ。アガレス・リッヒィンデルに、ヨウカハイネン・シュトルハウゼン。これにもう一人がいれば……。
 
 ハイネンは一瞬、人形を見て複雑そうな顔をした。なにかを言ったようだが、アゼルには聞き取ることは出来なかった。たぶん、"アルエ"だったのではないか。
 
 


「……人数はよく集まるな」

「でしょう――――シエナはどこです」



 
 アゼルらは攻撃してくる連中の相手をしていた。なので、やはり向こうはアガレスやハイネンに任せるしかない。

 ただ、キースやエリオンという人数が増えたから楽にはなった。
 もっとも、守護の能力持ち直であるエリオンはあまり戦闘には向かないようだが、守りの術は戦うものにとってはかなりの武器となる。

 怒り。悲しみ。嫌悪に憎悪。
 いろんなものが混ざりあっている。

 シエナの姿はなく、あるのは人形や影。早くなんとかしたいが、考えが全くわからない。

 ただ。
 キースの話だと、途中でランジットとゼノンと別れたという。魔物の相手をしたのは確かだが、そのあとがわからないらしい。合流するとはいったが、見ての通り彼らの姿はない。
 簡単にやられるはずかない。それはアゼルも思うと。やられてたら殺ってやる。そう口に出す。




「ああ、懐かしいな。二十年前もこんな感じだった」




 影は懐かしむようにゆっくり言葉を吐き出す。
 



「闇に手を染めていた者らは殺せたのに、お前は私を殺し損ね、しかも術を喰らって死にかけている。だから余計必死だ」

「アガレス、どういうことです」




 事情を知るアゼルやラッセルはともかく、ハイネンらは知らない。
 彼はあの事件で、術を喰らっていたことを。
 戸惑うハイネンをよそに、アガレスはなにも言わなかった。

 変わりに口を開いたのは、影だった。




「死に急ぐのならば、結構。かつての友が向こうで寂しく待っているだろうから、まとめて送ってやろう」


 

 影は人の形から、溶けるようにその形を失っていく。

 何が来るか。

 蠢いていたそれは、爆ぜるようにして周辺に飛び散った。飛び散るスピードは爆ぜたとしては遅く、それぞれが何とか回避できるくらいである。
 しかし気色悪いのは間違いない。エリオンが「のっ!」と妙な声をあげて避けていた。




「あいつが淋しく待ってる、か。むしろ」

「何で来た、とかいって蹴り飛ばすでしょうね。センスの大絶滅した格好で」




 避けた二人は、不敵に笑っていた。
 ハイネンは自信満々で答え「だろうな」とまたアガレスも頷く。

 そんな二人に、アゼルらもまた何だか心強く、気を引き締めた。大丈夫。

 飛び散ったものは広範囲だった。蠢いていたそれは、やがて人の姿ようなものになる。はっきりいって「気持ち悪い」のだが、わざわざ口に出すなといいたくなる。



 ――――悪夢か。


 それはまだ動ける人形らと共に、アゼルらに向かってきた。
 もちろん、避けたり受け止めたりするのだが、アガレスは奥へと向かっていく。影を追いかけているのか何なのか。
 
 追いかけたくても、人形や他の気持ち悪いやつらはアゼルたちを向こうへ行かせるつもりはないらしい。
 立ちはだかるそれに、ハイネンに迷いが出た。アガレスを追いかけようとした足はすでに止まっている。


 

「追いかけろハイネン!」

「しかし」

「いいから行け!ぶっ倒せ!」




 アゼルの声に、「貴方仮にも女性でしょう」と文句をたれたが、「ご無事で」と言い残しアガレスを追いかける。

 それでいい。
 人形を砕きながら、周囲を見る。


 ラッセルやキースなんかはなんとかなる。実際何とかしている。
 問題はやはり「ぐえっ」この赤髪である。本当に戦闘には向かないらしい。迫った刃を回避させるために首根っこを引っ張ってやる。変わりにキースがその人形を斬り倒した。






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