とある神官の話
巻き付いてきたのは、緑。植物の蔓だった。思いきり締め付けらる。何とかしようにも腕をとられてはハイネンはどうすることもできない。身をよじって何とかしようとするハイネンは、同じく抵抗するアガレスを見た。
蔓だけではない。
アガレスは能力持ちだ。簡単に拘束出来る相手ではない。が、それが可能なのはやはり、"シエナ"だからか。
"魔術師"の能力持ちならば可能だ。
文字に記号などが複雑に絡みあった帯状の術が、ハイネンとアガレスの自由を奪っていた。
「何事も冷静にと、"お父さん"は言ってませんでしたか」
「――――」
口調をあわせて"お父さん"といってみせたそれが、わざとだとわかっていても、こちらには激昂させるだけの力があった。
アガレスが吼える。
獅子吼となってそれは広がる。
彼女の父親は、いつだって冷静だった。強かった。様々なことを知っていて。本当に。
ハイネンがいくら頑張っても、敵わない相手。顔はすぐに浮かぶ。ハイネン、と呼ぶ声もだ。目を閉じ、謝った。
これでは、守れないかもしれない。むしろ……殺してしまうかも知れない。
避けたいそれを、どうすれば避けられるかわからない。まだ。
アガレスは顔色が悪かった。身動きを封じられているそれが影響しているのかわからない。リシュターの言葉も気になる。
それに。
なんだろう。ハイネンは違和感があった。目的を果たせたなら、早々と逃げてもいいのではないのか。だとしたら、何故―――待っているのか?
そんなことを思っているハイネンに、歪んだ笑みを浮かべた。
「貴方たちは黙って見ているといい。壊れる様子をな」
* * *
「――――」
それは、急に立ち止まった。
先頭を歩くのはマノとゼノンで、ランジットとレオドーラはその後ろを歩いている時のことだ。マノが急に立ち止まったかと思うと「なるほどな」と呟いた。
すぐ近くにいたゼノンは、何がなるほどな、なのかわからず「何がです」と返す。
ゼノンとランジットは本来、あの朽ちた建物の内部から見えた別の建物へと向かうつもりだった。途中から魔物と戦うことがなければ、ゼノンらはハイネンらとわかれることはなかっただろう。
そしてレオドーラたちはというと、ゼノンらを探しつつも、シエナを探していたといい、そして――――次の行き先をマノが「こっちだ」と進むものだから、ゼノンらは従うしかない。
まるでそれは、"知っている"かのようだった。
レオドーラはゼノンらと合流するまでの間、マノが主体だったらしい。「超直感かよ」というそれも、冗談抜きらしい。森の中で歩き回ったり…。そんなのありえるのだろうか。
見知らぬ土地ならばなおさら。ならば…やはり"知っている"のではないのか。
本当に、わからない。
マノは何故喚ばれたのか。何処の誰なのか。
ゼノンが知らなくてもまあいい。だがハイネンは知っている、とは思うのだが。
知識に、土地勘、ハイネンらのことを知り、腕もたつ。
敵に回るとやっかいだな……。
「そういえば、君は何故ストーカー予備軍と呼ばれているんだ?」
不意にそんなことをマノが口に出した。それはただの興味、という感じである。
「何故それを―――まあ、いいでしょう。よく言うでしょう。押して駄目なら押しまくれと」
「それ違うだろ。誰から教わったんだよそれ」
確かに父だったが、ともらすと
ランジットが苦笑し「押して駄目ならひいてみろ、だろうが普通」とレオドーラがいう。
おそらく、ストーカー予備軍云々はレオドーラの仕業だろう。じろりと見れば、素知らぬ顔をしていたが。